【私のオススメ本】川崎フロンターレ 中村憲剛さん推薦!
「クラッシュ 絶望を希望に変える瞬間(とき)」太田哲也著

 ◆瀕死の事故 プロの心構えとは 
 川崎フロンターレ入団1年目の2003年に読みました。プロとしての心構えを教わり、今の中村憲剛を形成する一つとなっている本です。
 「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれたレーシングドライバー・太田哲也さんは、1998年5月のレース事故で瀕死(ひんし)の重傷を負います。本には、19回の手術を重ね、全身を包帯で覆われながら回復していった経緯などが、事細かにつづられています。看護師や家族に当たり散らしたことなど、省こうと思えば省けたであろうことまで、赤裸々です。
 当時の僕はレギュラーではなく、試合に出たり出なかったりという選手生活でした。太田さんの壮絶なリハビリや葛藤の過程を知り、元気にサッカーをやれる状況なのに、自分の悩みは何と小さく恥ずかしいものかと思いました。
 次の日からは「毎日楽しくサッカーができている状況をかみしめよう」とピッチに立ち、その精神でここまでやってきました。不遇な環境にあっても、自分の体一つ元気なら何とでもなると勇気が出ました。
 生と死のふちに立つような壮絶な経験をしたにもかかわらず「レースが好きで、戻りたい」という気持ち。そこまでの思いがないと長く続けられないのがプロなんだ、と教えられました。フロンターレ一筋で17年目になりますが、1年目でこの本に触れられたのは必然か、と思うほどです。
 もともと読書好きではなく、本を読む必要性すら感じていませんでしたが、それからは週1冊以上の本を読むようになりました。長男が生まれてから読書量は減りましたが、練習場所近くの書店員さんとも仲良くなりました。
 本は事細かに想像力を膨らませながら読み進めるので、サッカーでも大切な「予測する力」を養えます。読書以外で培うのは難しい能力ではないかと感じています。
 ミステリーや青春スポーツものなど移動中や寝る前には様々な本を読みます。しかし、「クラッシュ」以上に影響を受けた本はまだありません。この本と出会っていなければ今の僕はいないかもしれず、違う道を歩んでいたかもしれません。
      ◇
 2001年出版。著者の太田さんは1998年、静岡県の富士スピードウェイで行われた全日本GT選手権第2戦に出場。予備走行中、降雨による視界不良のため、太田さんの車は、事故で停車していた前方の別の車に衝突した。太田さんは炎上する車内に約1分30秒取り残され、救助されたが全身にやけどを負った。

※2019年6月28日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

オススメ本の一覧へ戻る ビブリオバトルとは

ご登場いただいた著名人