知性とは「冷静な判断力」

  『知性の磨き方』著者 明治大学教授 斎藤隆さん

漱石、諭吉…近代日本の「手本」6人

新聞、新書、古典のサイクル大事

ノンフィクションの書評サイト「HONZ」代表の成毛眞さんが話題の本の著者と対談する「成毛眞の新読書スタイル」。今回は、近代日本の偉人たちの生きざまに学ぶ『知性の磨き方』(SB新書)の著者、明治大学の斎藤孝教授をゲストに招き、語り合った。

 

今こそ必要

 

 

成毛 「反知性主義」が世界的に幅を利かせるようになっている昨今、改めて知性について考える上でタイムリーな出版ですね。斎藤先生の考える知性とは何でしょうか。

斎藤 冷静な判断力があることだと考えています。知識斎藤教授P2.jpgがあっても、例えば、デマを信じ込んでちゃんとした判断ができないというのは知性に欠けているということになります。情報があふれる現在、自分でどれを選択して、何を判断するのかということが常に問われています。誤れば、自分の短期的な利益だけに向かって流されていくことにもなります。これほど知性が求められている時代はないのではないでしょうか。

成毛 英語だと知性と知能は同じ「インテリジェンス」(Intelligence)で、区別がないですよね。どういうわけか、日本語はきっちり分けている。元々、反知性主義というのは「アンチ・インテリジェンス」で、知能が高い人たちに対する反発、つまり賢い連中による統治は許さないぞ、ということですしね。

斎藤 踏み込んで考えると、確かに日本語の知性には、人格の高さが含まれている感じがありますね。

 困難乗り越える

成毛氏のP1.jpg 成毛 今回の著書の中では、夏目漱石、福沢諭吉、西郷隆盛、西田幾多郎、柳田国男、折口信夫の6人をメインに取り上げています。

斎藤 近代日本を作った人という観点から選定しました。明治以降、欧米列強の圧力の中、世界と向き合った、あるいは、外国の学問の方が進んでいる状況で、日本人とは何か、日本の行く先はどうあるべきか悩み抜いた、そして道を示した人たちです。様々な判断を求められて、それを乗り越える中で磨かれたタフな精神力が共通しています。今の時代にも必要なものです。

成毛 こうした人たちをロールモデルとして役立てるよう推奨されています。

斎藤 知性と言っても、一人ひとり気質が違います。自分と同じタイプだから、この人をモデルにしようとか、もしくは自分はこれが足りないから、あの人を模範としようとか、自分の気質や体質と対話しながらロールモデルを選ぶのがいいかと思います。

成毛 私は西郷隆盛がお気に入りですね。夏目漱石のように悩み過ぎたくないし、英雄的な西郷さんがいい。でも、もっと若かったら、例えば、20、30代だったら、もう少し悩もうと夏目漱石をロールモデルにするかもしれません。

斎藤 若い人が強い精神性を持ち、出来る限りタフに生きてほしいという思いが、僕にはあります。もまれた時にどれだけ自分を平静に保てるかという点で、この6人は荒波の中、自分のワールドを持って仕事をしてきた人間です。

成毛 読者層として意識したのはどんな人たちですか。

斎藤 仕事の現場でストレスを感じている人たちです。そういう意味では、いろんな世代の方々がターゲットです。20代、30代、40代、50代は、それぞれ違うストレスを抱えているのではないでしょうか。ストレスはパワーに変えることができる。いろいろな問題を抱えながら頑張っている方に読んでいただければと思います。

入門編に諭吉

成毛 一番のお薦めの人物は。

斎藤 入門編としては福沢諭吉ですね。透明度が高く率直で、言葉と本音がずれていない、カラリとしていてスッキリとした人物です。著書を読んでも誤読のしようがない。逆に折口信夫は底知れないところがあるので、入門編としては難易度が高いかもしれません。

 

 「日本で最強」は?

成毛 ところで、もし、日本史上最強の知性を挙げるとしたら、誰になるでしょうね。

斎藤 やはり豊臣秀吉、徳川家康あたりでしょうか。特に家康はあれほど長く続く国家の形を作り上げた。壮大な課題をこなしてきたのだなと思います。

成毛 私は家康の孫にあたる保科正之を挙げたいですね。私自身がロールモデルとする人物でもあるのです。秀吉、家康の武家社会を一気に「文武」の「文」の方向に振った。1657年の明暦の大火の際、江戸城天守を再建せず、復興を優先させるなど、いわゆる文治政治に瞬時に変えた。それが現代日本の繁栄にもつながっているのではないかと思います。知名度は低いですけど。

斎藤 それぞれスタイルがありますね。秀吉のようにとにかく金ピカでいたいという人と、保科正之がいいという人とは知性のスタイルが異なると思います。

成毛 今回の著書もそうですが、斎藤先生は胆力養成の必要性を説かれていますね。

斎藤 知性の中に胆力があってもいいと思い、西郷隆盛を扱った章で紹介させてもらいました。ヘソの下、指3本くらいの奥にあるいわゆる「臍下丹田(せいかたんでん)」に意識を置いて息をフーッと吐くことによって、ざわついた世の中で自分のところだけは静かでいられる。慌てそうな時に息をフーッと吐けば、おなかの下に自分がどっしりとしている感覚がある。その感覚を繰り返していくうちに、感覚がむしろ習慣となり、さらに技となり、息を吐くことで、本番であたふたすることなく、ちゃんと力を発揮できる。西郷隆盛は人格が胆力そのもののようでした。その胆力に多くの人が憧れて結集した。勝海舟の回顧録『氷川清話』の中でも、勝が西郷の「大胆識」、つまり「腹からわき出る知性」を高く評価するくだりがあります。

身につけ方

成毛 本で扱われた偉人たちも現在のネット社会出現を予想できなかったのではないかと思いますが、検索すればすぐに知識が得られてしまうネット時代にあって、どう活字と向き合うべきだと思いますか。

斎藤 自分よりも知性の高い人の話を聞くということが大切だと思います。毎日1時間ほど、ゲーテのような人物に話を聞かせてもらえば利口になるはずです。SNSなどで同レベルの人同士でおしゃべりするのは確かに楽しい。でも、一日の終わりに今日は高い知性の人の話に触れたかなと振り返って、そうでなければ、慌てて本を開き、10分でもいいから読むようになってほしい。

成毛 学生にはどんな指導をされていますか。

斎藤 まず「新聞を読め」ということ。そして、新書を週1〜3冊読むことです。それに加え、デカルト、ニーチェ、福沢諭吉などの古典を読むように薦めています。新聞、新書、古典の三つを回していくと、2か月くらいで知性が格段にアップする実感があります。

成毛 小中学生に薦める読書法はありますか。

斎藤 夏目漱石の『坊っちゃん』を音読することです。ルビの振られたものがいいですね。小学生200人と6時間かけて音読で読破したことが何度かあります。テンポのいい日本語の感覚と、漱石の語彙(ごい)も自然に身についてきます。体で漱石の文章のリズムを味わうというのは、すごく大切なことだと思っています。同時代の小説家でも、幸田露伴の文章だと、今ではなかなか読みづらい。漱石の文章は近代日本語のモデルになるのではないかと思います。日本中の子どもたちが音読で読破すれば、日本語のベースが格段に高まりますよ。文部科学省にぜひ協力していただきたいくらいです。言葉を身に刻むような勉強をぜひやるべきです。

 

成毛・齋藤ツーショット1.jpg

 

斎藤孝(さいとう・たかし) 1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫)、『楽しみながら1分で脳を鍛える速音読』(致知出版社)、『論語』(ちくま文庫)など。

 

成毛眞(なるけ・まこと) 1955年、北海道生まれ。中央大学卒業。早稲田大学ビジネススクール客員教授。元マイクロソフト日本法人社長。著書に『AI時代の人生戦略』(SB新書)、『教養は「事典」で磨け』(光文社新書)、『本棚にもルールがある』(ダイヤモンド社)、『本は10冊同時に読め!』(知的生きかた文庫)など。

 

主催 活字文化推進会議

主管 読売新聞社

協賛 SBクリエイティブ

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