第10回全国大学ビブリオバトル首都決戦 詳細特集

 大学生のお薦め本の日本一を決める書評合戦「第10回全国大学ビブリオバトル首都決戦」が昨年12月22日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。聴衆約450人による投票の結果、群馬大学1年の中山息吹さんが紹介した「天国からはじまる物語」(ガブリエル・ゼヴィン著、理論社)が最高賞の「グランドチャンプ本」に選ばれた。今年度は、全国の地区予選、地区決戦に128校、1349人が参加し、勝ち抜いた36人が出場。この日行われた準決勝の勝者6人が決勝に臨んだ。

【グランドチャンプ本】 

「天国からはじまる物語」ガブリエル・ゼヴィン著(理論社)/中山息吹さん(群馬大理工学部1年)

 「皆さん、人は死んだらどうなるんですかね」。プレゼンの冒頭、質問を投げかけた上で、「残念ながら私たちは、その答えを知ることはできません。でも、この本では死後の世界がとても具体的かつ納得のいくシステムで描かれているんです」と魅力を紹介した。「死後の世界観」や面白さを穏やかな口調、説得力ある内容構成で語り、聴衆を引きつけた。
 主人公は16歳の誕生日を目前に交通事故で死亡した少女リズ。小説では、人は死ぬと、ある船に乗せられ、死後の世界「ドコカ」へたどり着く。そこは現世と見た目は同じだが、決定的な違いは年齢が遡り、生後7日まで若返ると川に流されて新たに生まれ変わる。大人になれない新たな人生を受け入れられなかったリズだが、出会いや仕事に恵まれ、充実した人生を送り、次の人生に向かっていく。
 「この本から伝わってくるのは、どんなつらい状況でも今できる精いっぱいのことをしていれば、未来はきっと明るくなるということ」と強調。「人生の壁にぶつかったときにそっと背中を押してくれる一冊です。ぜひ読んでいただきたい」と呼びかけて締めくくった。
 高校3年だった一昨年、群馬県大会で優勝したが大学入試のため全国大会に出られなかった。グランドチャンプ本獲得者が発表された瞬間、深々と一礼、「本当に悔しくてこの無念を晴らしてやると思っていた。夢がかなった」と喜びを爆発させた。

 【準グランドチャンプ本】 

「少年の名はジルベール」竹宮惠子著(小学館)/服部圭さん(尾道市立大芸術文化学部3年)
 結果発表で、司会のお笑い芸人・カモシダせぶんさんらが「予選も見たが圧巻のプレゼン力」「存在感も素晴らしい」と思わずうなる場面もあった。
 紹介本は1970年代、まだ公に語られることが少なかった少年同士の恋愛を鮮烈に描き、センセーションを巻き起こした少女漫画「風と木の詩」の作者・竹宮惠子さんの半生記。
 「触れあった肌と肌から」「ぼくをかくしてよ、きみの中に」。「風と木の詩」の主人公ジルベールが愛する少年へのほとばしる思いを語る漫画のフレーズを、出場者唯一のスーツ姿で、紹介本を大切そうに両手で持ちながら情熱的に会場に語りかけた。
 少女漫画界に革命を起こそうと大志を抱いて上京したが、「風と木の詩」を持ち込んでも出版社に相手にされなかったり、体調を崩したりしながらも、諦めずにペンを握り続け、歴史を変える名作を世に出していく作者の姿に心を揺さぶられた。
 大学では日本文学を学ぶ。小説家を志す学友が創作過程で苦悩する姿も見ている。「新しく創造する苦しみは大変。可能性を追求する姿に勇気をもらった。涙なしには読めず、ぜひ手にとってほしい」と呼びかけた。

 
 【ゲスト特別賞】 

「春宵十話(しゅんしょうじゅうわ)」 岡潔著(光文社)/北野翔大さん(大阪大経済学部3年)
 世界的な数学者岡潔の人間論に出会ったのは、お互いの気持ちを理解しあえず、人間関係がこじれ悩んでいる時。「1行目の『人の中心は情緒である』の文章にビビビッと来た」。情緒とは何かがつかめれば人の気持ちが分かるようになるのでは、と期待したという
 宗教と人間の関係、人が動物と違うのは思いやりの感情があるかどうか、松尾芭蕉の「秋深き隣は何をする人ぞ」の精神が情緒である、などの著者の主張に「分かったようで分からない、不思議な感覚になった」。
 よどみない口調で、5分間の持ち時間はあっという間に経過。最後に「自己啓発本のような問いに対し、はっきりと答えが書かれていないし、皆さんが読まれても、何の話してんねんってなるかもしれない。でも、永遠の悩みを与えてくれる本です。読んだら何かが見えてきます」と締めくくった。
 冒頭で「下克上やと思って頑張りたい」と宣言した通り、関西の地区決戦2位から繰り上がりで出場権を得た幸運を見事に生かした。

 ◆読書の定着 先生のサポート必要◆
 一昨年開催の「ビブリオバトル☆スター決戦」で優勝した俳優の鈴木勝吾さん、ジャーナリストの清水潔さん、紀伊国屋書店会長兼社長の高井昌史さんがゲスト出演し、読書の大切さなどを語り合った。
 活字離れについて、高井さんは幼少期から家庭や学校での読書環境の重要性を指摘し、「学校図書館を充実させ、スポーツにコーチがいるように、慣れないうちは読書の仕方を教える司書や先生が必要」と訴えた。
 鈴木さんは「本を読まないと台本も理解できない」と、役作りでの読書の大切さを説明。高校時代、テストの度に課題図書が5冊出され、文芸から新書まで徹底的に読んだ経験を明かし、「今読書は楽しいと思えて、僕は恵まれている」と振り返った。
 「読書で身につく教養は社会で何をやるにも役立つ」。読書の効用を力説する清水さんも一次情報を早く入手したくて、以前よりスマホをのぞき込む時間が増えたため、「よくないと思い、最近は読む時間をあらかじめ決めている」と話した。

 ◎中学決勝大会 3月29日開催◎
 活字文化推進会議は、中学生のお薦め本ナンバーワンを決める「第3回全国中学ビブリオバトル決勝大会」を3月29日、東京都世田谷区の昭和女子大学で開催する。出場者希望はコチラ、一般観戦希望者はコチラまで。

 

 

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