2008年04月08日
読書教養講座、首都圏西部大学単位互換協定会での取り組み(2008年度)
共同授業とは
共同授業とは首都圏西部大学単位互換協定会に加盟している28大学・短期大学(以下、「大学」と略します)が連携して授業科目(総合講義)を開設し、各大学の講師がオムニバス形式で授業を実施するものです。講義テーマは多くの学生諸氏の「自分のすきな分野の知識を広げ、教養を深めたい」という希望を考慮し、現代社会が直面している課題の中から選びました。共同授業は一定の条件を満たせば、所属する大学の単位として認定されます。
共同授業参加大学(五十音順)
出願資格
単位互換協定会に加盟する全ての大学の学生が対象で、所属大学の許可を得ることができれば、誰でも受講することができます。ただし、大学によっては受講条件がありますので、所属大学にご確認ください。そのほか高校生の受講も可能です。(詳細は所属高校にお問い合わせください)。
授業方法
共同授業は、4つの統一テーマをそれぞれ6回のオムニバス形式で行います。授業は、各大学の講師がそれぞれの専門分野から統一テーマに沿った内容で行います。学生諸氏には、各授業の最後に簡単なアンケート等を提出していただきます。
eラーニング受講登録者であればインターネットに接続しているパソコンからいつでも受講することができるeラーニング授業も平行して行います。eラーニング授業は対面式授業の2週間後に受講可能となります。
総合講義 「読書で人生を豊かにするIII−君と読みたい本がある−」
講義概要
高齢化社会の進展や情報技術(IT)時代の到来で、読書をめぐる状況も変化している。若者を中心にインターネットによる本の購入が拡大している一方、「本離れ」には相変わらず歯止めがかかっていない。とはいえ、本を読むことで得られる効能は、計り知れない。国語力が養われ、知識や語彙が身につくのはもちろん、人間の弱さや強さを学び、生きることの意味を知り、心の糧が得られる。いい本は面白い。そこには、この社会で生きていくために知っていた方がよいことの、すべてが詰まっている。君と読みたい本がある−2007年の読書週間の標語だった。6回にわたるこの講座の狙いでもある。
第1回 4月26日 「村上春樹『海辺のカフカ』を読む」
東洋英和女学院大学 与那覇恵子
言葉にはさまざまな意味があります。時に「文学作品」と呼ばれる小説には、日常生活で使われる言葉の意味を超えた象徴性が込められていることがあります。たとえばタイトルの「海辺のカフカ」とは何でしょうか。カフカからイメージするのはチェコの作家フランツ・カフカでしょうか。それとも何か別のものでしょうか。『海辺のカフカ』ではギリシア悲劇や千夜一夜物語、源氏物語、雨月物語、夏目漱石の作品、そしてフランツ・カフカの「流刑地にて」などについて言及されています。比喩的な意味の世界とそれぞれの文学世界が関連しあう『海辺のカフカ』は、言葉にふれる楽しみと現代を生きる知恵を与えてくれます。できる限り『海辺のカフカ』上・下(新潮文庫)を読んでから講義に臨んでほしいと思います。
参考図書:加藤典洋著『テクストから遠く離れて』(講談社)、清水良典著『村上春樹はくせになる』(朝日選書)
第2回 5月17日 「競争に勝ち抜くための知恵と工夫−『風姿花伝』の魅力を探る−」
国士舘大学 表きよし
『風姿花伝』は古典文学作品で、しかも能楽論となると、読者の対象としてはもっとも敬遠されそうな作品です。ところが意外なことに、ビジネスマンに根強い人気をもつ作品でもあるのです。『風姿花伝』には、世阿弥の能役者としての経験から生み出された、厳しい競争を勝ち抜くための知恵と工夫が詰まっているからなのでしょう。この講義では、世阿弥の生涯や『風姿花伝』の成立過程などを含めて、『風姿花伝』の面白さを伝えたいと思います。書名くらいはきいたことがあるという作品に触れてもらうことで、読書の幅を広げる機会になることを期待しています。
参考図書:野上豊一郎・西尾実校訂『風姿花伝』(岩波文庫)、加藤周一・表章校注『世阿弥 禅竹』(日本思想体系、岩波書店)、横道萬里雄ほか編『岩波講座 能・狂言』(岩波書店)
第3回 5月31日 「山本周五郎著『さぶ』を読む−物語文学にみる青年期の課題−」
桜美林大学 井上大衞
『樅の木は残った』『赤ひげ診療譚』など映画化・テレビドラマ化されることも多い作品でよく知られる山本周五郎。その代表作の一つ、『さぶ』は、そこに登場する主人公達と同じ年頃(二十歳前後)にぜひとも読むべき作品です。二十世紀の日本文学であり、十九世紀の江戸を舞台にした物語でありながら、実はギリシア古典や聖書にも通ずるモティーフとプロットを見出すことができます。つまり普遍的な要素を持っていることがこの作品の魅力です。物語というジャンルの読み方を手ほどきしながら、この作品の魅力を紹介したいと思います。
参考図書:山本周五郎著『さぶ』(新潮文庫)を各自用意してください。
第4回 6月14日「父と子の魂の救済の物語」:を読んで考える
桜美林大学 石郷岡幸男
「脳が死んでも体で話しかけてくる」。自ら命を絶った25歳の息子の脳死から腎提供にいたる最後の11日を克明に綴った感動の手記である柳田邦夫・著『犠牲(サクリファイス)わが息子・脳死の11日』。これを読みながら、人間のいのちとは、脳死と臓器移植、家族愛などについて、受講生と一緒に考えてみたい。この物語を通して現代人の生と死のあり方を考えるとともに、現代に生き苦悩した一人の若者の実像を知ることは、われわれに直接的には関係ないように見えても、実はいのちという根源的なところでつながっているのではないか。下記の「参考図書」をなるべく読んで講義に臨んでもらえたら幸甚である。
参考図書:柳田邦夫・著『犠牲(サクリファイス) わが息子・脳死の11日』(文藝春秋刊・文春文庫)
第5回 6月28日 「読書で人生は豊かになるか?」
鎌倉女子大学 飯田篤司
「読書は良いことだ」「読書は人生を広げ、豊かにしてくれる」・・・こうした考えに疑いを挟む人は少ないでしょう。しかし、歴史的に見れば、読書は必ずしもいつの時代においても推奨されたものではありませんでした。読書をすることで人はどのように変わったのでしょうか?何を得て、何を失ったのでしょうか?そして読書で人生は、どのような意味において、どのように「豊か」になったのでしょうか?この講義では哲学的な視点から、こうした読書することの意義について、改めて考えていきたいと思います。
参考図書:プラトン『パイドロス』(岩波文庫)・M.マクルーハン『グーテンベルクの銀河系』(みすず書房)
第6回 7月12日 「まとめ授業」全講師