女性として生きるということは、命を孕む可能性のある肉体を持ちながら、それこそが欲望の対象になりえるという現実に、たえず引き裂かれながら生きるということだ。 本書に収録された三作品のいずれにも、様々な女性が登場する。ヒモを自負する男のために身を立てる少女、「自由恋愛」の思潮のもと一つ屋根の下
エドワード・ケアリーに古屋美登里さん、読まないわけがない。しかもそれは汚物にまみれた世界で愛をさけぶ物語。恐ろしく凄まじく、悲しく切ない。 近頃はディストピア小説が注目を集めることが多い。ノーベル文学賞で話題のカズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』もひとつの例え話。ありえるかもしれない
昨年本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』(文藝春秋)の著者・宮下奈都さんというと、人々の想いを丁寧に掬い取り静謐な物語を描く作者と、思い浮かべる方も多いだろう。しかし、本書はいささか趣を異なっているのかもしれない。 本書は全国の書店員はじめ大きな支持を得ている『スコーレNO.4』のスピン
読売新聞家庭欄の人気コーナー、「こどもの詩」。中学三年生以下の子どもたちが書いた詩を掲載するこのコーナーは、今年でなんと50周年。この『ことばのしっぽ』は、そんな50年間の精選集だ。 せきがえ(小野里奈・小1) きょう/せきがえがありました/一がっきつかっていた/つくえといすに/みんなにわか
『肩ごしの恋人』で直木賞を受賞して一五年。唯川恵といえば誰もが知る恋愛小説の名手である。そのイメージは一変。新作は実在の世界的登山家・田部井淳子氏をモデルにした臨場感満点。間違いなく今年の「てっぺん」レベルの長編小説だ。生前から田部井氏を敬愛し晩年を寄り添うように取材して、世に出されたこの作品は著者
かつて読んだ名作の新訳版が出版されると、懐かしさも相まってついつい再読してしまう。『一九八四年』で有名なジョージ・オーウェルの一つの代表作であるこの『動物農場』もそんな作品の一つ。 悪政者の人間農場主ジョーンズを追い出した動物たちは、すべての動物たちは平等であるという理念を掲げ「動物農場」を設
この本の発行が2011年7月というのだから初めて読んだのは6年前になる。一読して衝撃だった。イッキ読みしながら、いったい何枚の鱗が目からこぼれ落ちたことだろうか。日頃の接客の仕事につまずくたびにも読み返してみる。けっして古びれない。志は高い。自分には出来ないながらも、唸ってしまう。ああ「この本は、
読中、まず日常にまつわるゴシップに浸る愉しみに満たされる。本作は2011年の震災をきっかけに、普通に日々を過ごす大学の女性職員や学生たち登場人物の日々を通じて、今までよりも身近になった「死」ということに、様々な問いや考えをそれぞれが著者を通じて表している。もちろん、その登場人物たちは、大なり小なり周
社会現象にもなった「ポケモンGO」より前に出ていた「イングレス」というオンラインゲームをご存知でしょうか?実は私、年甲斐もなく「イングレス」に夢中になっていた時期がある。 このゲームは「位置ゲー」と言われるスマートフォンのGPS機能を使ったゲーム。普通はゲームと言うと「インドア」な感じがどうしても
作家・大崎善生氏のデビュー作。29歳で夭逝した棋士、故・村山聖九段の生涯を描いたノンフィクション小説。2016年には松山ケンイチ氏の主演で映画化された。 幼少期、難病・ネフローゼとの闘病生活を送る病院で将棋に出会う。やがて棋士を志し、難関の奨励会を驚異的なスピードで駆け抜け17歳でプロ入りを果たす