第18回「読書は遊びである〜恋愛小説編」

対談 〜湊かなえさん&有川浩さん〜

「違う世界、本から感じる」(湊かなえさん 写真右)
「活字って、すごいメディア」(有川 浩さん 写真左)

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 ――まず読書体験をお話しください。

 【有川】 私は本をよく読む子だったと思いますが、「本を読む子」に対する世の中の「まじめな子」というイメージに、納得がいきませんでした。クラスメートがドッジボールなどをしているのと同じ感覚で読書をしていたのですが。

 【湊】 「休み、何してたの」と聞かれて「本読んでた」と答えると、「あんなに天気がよかったのに」とか「連休だったのに」と言われた経験は、私にもあります。読書で違う世界を見て、すごく有意義な時間を過ごしたなと感じているのに、「かわいそう」みたいに言われ、「そうじゃないんだけどな」と思って。

 【有川】 「あなた、友達いないの」とか。

 【湊】 そうそう。読書は他の遊びと同じラインに並べてもらえてないですよね。

 【有川】 読書感想文というのを、なくしてしまえばよいと考えています。本を読まない子にとって、1冊読むことだけで大変な労力です。そのうえ感想文は「粗筋では駄目」とか、さまざまな条件がついて、これを義務としてやらされたら、「本が嫌いになるのも当たり前だな」と思います。

 【湊】 本を読んで「ああ、良かった」と思っても、「それを文章にしろ」と言われたら、熱が冷めてくるということはありますよね。それでも好きなように書いて出せばいいのだったら「本当に楽しかった気持ち」や、「あの場面が好きです」などと書けるけれど、読書感想文はそうじゃないですよね。本のキャッチコピーのコンテストとかだったら楽しいのに。                                                

宝の山見つけた

――本を読むようになったきっかけは。湊2.jpg

 【湊】 小学校3年生くらいの夏休みのある朝、起きたら「お母さんが好きだった本をそろそろあなたも読めるんじゃないの」という感じで、本が並べてあり、その中に『怪盗ルパン』シリーズが2冊あったのです。すごくはまって、学校の図書館に行ったら何十巻もあり、「こんなにあるんだ」と感激したのが最初ですね。

 【有川】 宝の山を見つけたような感じですね。
 私の家は本棚に父親の本が、それこそ世界文学全集から漫画までごちゃ混ぜで、その中から読めそうなものを引っ張り出して読んでいました。それと、学校図書館を使えるようになるというのが、ターニングポイントですね。

 【湊】 カードを作ってもらって、本が借りられるようになる。

 【有川】 背伸びして、親の本棚をあさったりしていたのが、自分の年代で読みやすい本を読めるようになって、余計本が好きになって、どんどんのめり込んでいった。そしてきょうのおすすめの本を含む様々な本と出会いました。

 ――では、推薦本を紹介してください。

 【有川】 私の1冊目は佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』。『コロボックル物語』シリーズの1巻目です。アイヌの伝説の小指ほどの小さな人、コロボックルに小学校3年生で出会った主人公の前に、大人になってから、彼らがまた現れるという話。最終的には上質な恋愛物語にもなっています。2巻目の『豆つぶほどの小さないぬ』もすてきな恋物語。私の恋愛もの好きって、全部児童文学から発酵したものという感じがします。

主人公に自分重ね

【湊】 最初のおすすめ本は中学時代に読んだ林真理子さんの『葡萄が目にしみる』です。私は広島の因島の出身で、田舎の生活とダブるところがあって、主人公に自分を重ねて読んでいました。

 【有川】 田舎の風景というのが、温度とかにおいを伴って立ち上がってきますね。

 【湊】 ラグビー部のスターで反発したこともある高校の同級生と大人になって再会した時、互いに幸せで、「あんたも私も、本当によかったね」とつぶやくセリフが胸に迫ってきた。そう言える人に出会いたいと思った物語です。

 【有川】 『大きな森の小さな家』はローラ・インガルス・ワイルダーの自伝的な物語。「大草原の小さな家」という題で、放映していたのでご存じの方も多いと思います。最初のうちは恋愛の話は全然ありません。

 【湊】 開拓がメーンで、むしろお父さんとお母さんが主役ですね。

 【有川】 5冊目までが小学校の図書館にあって全部読み、中学に入って続きがあることを知りました。そこではローラが一人前の女性として恋愛をしている。子供だったローラと同じ年ぐらいの時にこのシリーズを読んでいたので、「ローラがこんなすてきな恋を出来るんだったら、私もそのうちに」と思いました。国も時代も言葉も生活環境も何もかも違うのに、恋をする気持ちとかちょっとした感情の揺らぎとか、全然私たちと変わらない。恋したら時間とか時代はまるで関係ないんだと知りました。

 【湊】 次は佐々木丸美さんの『雪の断章』と『水に描かれた館』を続けて。タイトルにひかれ、『水に描かれた館』を先に読みました。ミステリーなんですが輪廻(りんね)転生や精神世界をも扱っています。文体に独特のリズムがあって、詩を読んでいるような。「乙女」という言葉がすごくあうような文体です。
 『雪の断章』は「日本版あしながおじさん」という感じ。5歳の孤児の女の子が親切な青年に出会うところから始まり、会社相続の陰謀や毒殺事件などもある、これも広義のミステリーです。知的で包容力があって格好良くて、という人が出てきます。

 【有川】 包容力ってポイントですよね。手のひらの上に載せてくれるような。

 【湊】 舞台が北海道で、雪を絡めた文章がすてき。

 【有川】 南より北にロマンがあるような感じがしますね。

 【湊】 そうなんです。だって、暖かかったら、暖め合おうと、思わないじゃないですか。

 【有川】 「暑いから離れて」みたいな。

 【湊】 高校時代に佐々木さんの本に出会えて、「世の中にはこういう文章があるんだ、文章でこんなに読者をうっとりさせられるんだ」と思いました。読んでいる間、田舎の狭い自分の部屋にいるのに、違う空気が流れている空間になったようで、この空気に若い人もぜひ触れてほしい。
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 【有川】 わたりむつこさんの『はなはなみんみ物語』は、こびとが主人公のシリーズ。昔栄華を誇った文明が大戦争でついえて、それを再生していこうという壮大な3部作です。日本の戦争体験ともちょっとダブらせて書いている感じ。世界を再生させるのには、思いやりの心や、若者たちの情熱や愛情を育む環境が必要だということを訴えています。

 【湊】 人は自分のためには頑張れないですよね。大切な誰かがいるから頑張れる。
 原田宗典さんの『優しくって少しばか』は、恋人同士が風邪を引いて、ちょっとぐったりした状態で、ずっとお話をしているというもの。2人の話はくだらないかもしれないけれど、すごく楽しくて、互いに好きで気持ちが通じ合っている人と一緒にいられるのっていいなと、幸せな気分になれる話です。

 【有川】 今回私も読んだのですが、風邪で熱が出ている時のちょっととりとめのない感じがよく表れていて、こういう文章を読むと、「活字ってすごいメディアだな」と思います。
 ウェブスターの『あしながおじさん』は「いまさら紹介するのも」という感じですが、恋愛のわくわく感とあしながおじさんは誰なのかという謎がほぐれていくわくわく感が二重に味わえて、とても楽しい物語です。

手紙形式の小説

【湊】 宮本輝さんの『錦繍(きんしゅう)』は書簡形式。こういう形式でも小説が成り立つんだと驚きました。読んだころはまだインターネットも普及していなくて、自分もよく手紙を書いていました。手紙が一番自分の心を伝えることが出来る手段、最強アイテムだと、思いました。

 【有川】 私の最後のおすすめは、少女の永遠のベストセラー、モンゴメリの『赤毛のアン』です。これはアンが成長していく物語、というのが正しい読み方だと思うのですが、私にとってはギルバートとのすれ違いがすべてと言っても過言ではありません。
    
 ――お互いの著作についての印象を。

 【有川】 『告白』は、読んでいて次々にびっくり箱を開けていくみたいな感じ。寝る前に少しだけと思っていたのに、読み終わるまで止まりませんでした。ほんとに、ほんとに面白かったです。

 【湊】 私は『図書館戦争』。これを思いつくのはすごい。「どこからこんな発想が」と感動しました。物語をまっすぐ貫く図書隊員の話があり、これにラブストーリーが一緒についてくる。本当にひとつ違うところに連れていってもらったという感じで、アトラクション体験をさせてもらいました。

 【有川】 湊さんにそう言っていただけて光栄です。

 【湊】 読書は何か違う世界を体験するアトラクション的なものであっていいんじゃないかと思います。日常と違う世界を体験したというだけで、本を十分楽しんだということじゃないかと思って。有川さんの著作はまさに「有川浩ランド」。図書館、自衛隊、ラブストーリーと色々な種類のアトラクションが、一人の中にある。そういう世界が自分でも作れたらと思います。

 【有川】 『告白』では、最後までどこに行くのか分からない、すごい体験をさせていただいたので、これから「湊かなえランド」がどういう風になっていくのか、とても楽しみです。

 【湊】 「恋愛館」なども作っていきたいのですけれど、なかなか。でも、ちょっとずつ増やしたいですね。

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◇みなと・かなえ 広島県生まれ。『答えは、昼間の月』で創作ラジオドラマ大賞、『聖職者』で小説推理新人賞を受賞。『告白』で「本屋大賞」の第1位。近著に『少女』『贖罪(しょくざい)』。
◇ありかわ・ひろ 高知県生まれ。『塩の街』で電撃小説大賞を受賞。『図書館戦争』シリーズで星雲賞日本長編作品部門賞に輝く。近著に『阪急電車』『三匹のおっさん』『植物図鑑』。
◇21世紀活字文化プロジェクト 
 読売新聞社は7年前、作家や学者、出版業界などに呼びかけて「活字文化推進会議」を結成し、「新!読書生活」「子どもの本フェスティバル」など言葉の力をはぐくむ様々な事業に取り組んでいます。

 

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