三省堂書店神保町本店 大塚真祐子さん推薦! 
「茄子の輝き」(滝口悠生 著)新潮社

 『死んでいない者』で第154回芥川賞を受賞した滝口悠生氏の最新刊は、「お茶汲み当番」のローテーションが会議で定義されるような、ある小さな会社の日常からはじまる連作短篇集だ。連作はすべて離婚した妻の面影を断ち切れない男、市瀬の目線で綴られている。

 滝口作品には土地の固有名詞がよく登場する。今作も例外でなく、高田馬場や江古田などの実在する土地に流れる時間とその土地にまつわる記憶が物語のなかで撹拌されたとき、ありとあらゆる場所が、ありとあらゆる世界で同時に存在しているという、普段は意識することもない当たり前の事実を、ビブリオバトルページを繰りながら奇跡のように感受する瞬間がある。

 市瀬が心の拠り所にしているおかっぱ頭の「千絵ちゃん」の存在が秀逸で、恋愛感情とはまた異なった、だからこそ奇妙な思い入れからくるおかしな反応や行動に、ついつい吹き出してしまいそうになる場面もある。

 人の「生」の様々な形に思いをはせる、現在のところ今年一番の傑作だ。


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