活字文化プロジェクトから

ごあいさつ

活字文化の活性化をめざして――情報世界の膨張のなかで

山崎正和 推進委員長

活字は漂流する情報世界の碇(いかり)である。

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人間はいま、溢(あふ)れる情報のなかでとまどっている。映像や音響に乗った情報は刺激的だが、つぎつぎに流れ去ってとりとめがない。一つにまとめて意味を捕らえようとすると、絵も音も質を変えてしまう。ただ早回しされたビデオは、ビデオの要約とはいえない。言葉だけが、そして活字だけが、現実を凝縮して、意味あるものに変えることができる。

きれぎれで脈絡のない情報は、人間を受け身にして、世の中を感情的にする。人の感覚ばかりを誘惑して、落ち着いてものを考えさせない。活字だけが情報と人間の間に距離をつくり、読み取る努力を要求する。そのことが頭を積極的に働かせて、自分で現実を理解したり、解釈したりする人間を育てる。

活字は肥満する情報世界の骨格である。

無秩序にふくれあがった情報世界は、見渡しがきかない。どこが中心でどこが周辺か、どこが始まりでどこが終わりか、つかみどころがない。活字は編集という作業をともなって、情報に骨組みを与える。新聞には見出しがあり記事の長短があって、毎日の情報に一目でわかる見渡しをつける。本には章立てと目次があって、著者の考えの構造を明らかにする。人間が知識を持つとは、情報にこうした骨格を与えることであるが、活字はそのために欠くことのできない媒体なのである。

文字は人間の歴史とともに生まれ、活字は知識が全人類のものになったときに生まれた。活字文化とは人間らしい人間のあり方そのものである。二十一世紀にますます成長するはずの情報世界を迎えて、これを漂流する肥満児にしないために、必要なことはいま、確かな碇と骨格を用意しておくことだろう。

 

活字文化プロジェクトとは

【21世紀活字文化プロジェクト】企画概要

読売新聞社は出版関係業界と協力して、活字文化推進会議を発足させ、本や新聞などの活字文化を守り育てるため「21世紀活字文化プロジェクト」を展開します。

若者を中心に活字離れ現象は深刻さを増しています。このままでは次世代の思考力や創造力の低下、ひいては人間力の衰退につながりかねません。活字文化のさらなる発展が急務です。

会議では山崎正和氏(劇作家・大阪大学名誉教授)を委員長に、各界の有識者で推進委員会をつくり運動を進めます。全国各地でフォーラム、トークショーを開催するほか、大学での公開講座や読みきかせ教室など多彩な事業を計画しています。

また、本紙では活字文化の現状、将来展望、効用について多角的に分析、検証し、特集や連載企画として掲載します。さらに、インターネットなどを使った意識・実態調査を行い、活字文化の調査研究にも取り組みます。

後援

文部科学省、文化庁、NHK、日本書籍出版協会、日本雑誌協会、読書推進運動協議会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会、出版文化産業振興財団、日本図書館協会、全国学校図書館協議会

 

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