【私のオススメ本】第3管区海上保安本部長 宮崎一巳さんお薦め!
「失敗学のすすめ」(畑村洋太郎 著)講談社

 ◆教訓を訓練に生かす
 2001年、海上保安庁に新設された国際・危機管理官という部署に着任しました。諸外国との調整や、テロなどの国民の生命を脅かす恐れのある緊急事態に備える仕事です。「危機管理とは、失敗をしないことだ」と思っていた私は、タイトルに目を奪われ、この本を手に取りました。
 ビブリオバトル本では、失敗を恐れて隠そうとする日本社会の欠点を指摘し、「失敗のマイナス面のみに目を向け、プラス面を見ないのはおかしい」と説いていました。「失敗しないことが大事」なのではなく、「成功よりも、失敗から学ぶことの方が多い」と学びました。
 08年に県外の海上保安部長となった直後、外国の漁船による違法操業の情報が寄せられました。この海保は実績も豊かで、私は何の懸念も持たずに巡視艇を向かわせました。ところが、人事異動が相次いだことで対応策や技術が適切に引き継がれておらず、現場では漁船を捕捉することにすら時間を要してしまいました。
 この失敗を振り返ったとき、人の入れ替わりで現場の経験値が下がることは避けられないが、であればこそ、過去の事例を踏まえて訓練を繰り返すことが重要だと考えました。
 職員が一丸となって徹底した訓練に取り組んだことで、近隣国からの密航者を複数回にわたって検挙するという大きな成果を上げただけでなく、ノウハウは沖縄県・尖閣諸島周辺の警備を担当する船艇にも共有されました。
 海上保安官としての最後の10年は「仕上げの10年」と言われます。世界有数の海上交通の要衝・東京湾の安全も守る第3管区海上保安本部に来た私にとっては、後輩を育てることが「仕上げ」。部下に訓示する際には、必ず「失敗は悪いことではない。失敗しても、失敗から学び、先につなげればいい」という言葉を贈るようにしています。
     ◇
 講談社から2000年に出版され、後に文庫化もされた。工学者でもある著者は、事故や失敗の原因を解明し、経済的打撃や人的損失を減らす方策を考えるという独自の「失敗学」を提唱。政府の福島原発事故調査・検証委員会の委員長も務めた。

※5月11日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

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