【私のオススメ本】「かわさき宙(そら)と緑の科学館」のプラネタリウム弁士 河原郁夫さんオススメ!
「火星兵団」(海野十三 著) 三一書房

   ◆宇宙への想像力培う 
 新聞に連載されていたのが10歳の頃。夢中で読みました。その頃に東京・有楽町のプラネタリウムを見に行って以来、星の世界に魅了されていたからです。戦時中の1945年、空襲に遭ったときも星の本を抱えて逃げたほどです。
 火星人が地球に侵入するため、人間の姿に化けて日本に潜り込んだところ、少年と接触して様々な事件が起きるという物語です。先の展開が予想できずに「次はどうなるんだろう」と楽しみにしていました。登場する火星人の様子も印象的で忘れられず、今年になって改めて本を取り寄せました。ビブリオバトル
 父は工場のエンジニアだったので、家には機械の部品がたくさんありました。小学生時代に望遠鏡を自作し、自宅の物干し場を「河原天文台」と名づけて友人と天体の観測会をやったものです。「火星兵団」を読んでからは、火星を観測しては「火星人が住んでいるかもしれない」と想像を膨らませていました。
 日曜になると、ためたお年玉などを握りしめて有楽町のプラネタリウムへ行き、母が持たせてくれたおにぎりを近くの日比谷公園で食べるのが何よりの楽しみでした。戦争中は夜になっても明かりがつけられず、街は真っ暗。その代わりに星がよく見えたため、プラネタリウムや本で得た知識を実際に確認できました。
 戦争は嫌でしたが、子どもながらにささやかな楽しみを見つけていたのだと思います。それからもずっと星のことが好きで、東京理科大で研究を続けた後、プラネタリウムを解説する「弁士」として県立青少年センターなどで勤務しました。約20年前からは川崎で活動しています。
 「火星に生命はあるのか?」。私は「いたら面白いな」と思います。約70年間にわたって太陽の黒点観測を続けています。宇宙にはまだまだわからないことが多いですが、「火星兵団」で培った想像力は、今も役立っています。(高梨しのぶ)
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 「大毎小学生新聞」などで1939年9月から約1年3か月間にわたり連載し、三一書房の「海野十三全集第8巻」に収録されている。海野は「私は、この小説にあるようなことが、やがていつかは、必ず起るであろうと、かたく信じて書き出したのです」などと語り、子どもたちが科学に関心を持つことを願っていた。

※4月20日付けの読売新聞神奈川県版にも掲載されています。

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