共立女子大学 活字文化特別セミナー

主催者あいさつ

◇共立女子学園学園長・理事長 石橋義夫さん

地域と連携し女性を育成

共立女子学園は、1886年(明治19年)に女性の自立を目指し、34人の創立者により、誠実・勤勉・友愛を建学の精神として設立されました。教育発祥のこの地で地域社会との連携を大切にしてきましたが、これからも社会で活躍できる女性の育成に貢献していく所存です。今日は、神保町ブックフェスティバルの一環として活字文化特別セミナーを開催し、歴史ある共立講堂に多方面でご活躍中の勝間和代さんをお迎えし、お話を伺えることを大変うれしく思っております。

基調講演「女性力と活字」

◇経済評論家 勝間和代さん

勉強も情報も貪欲に

男女平等の度合いを示すジェンダーギャップ指数が発表されました。今年の日本の順位が135か国中101位と低水準に終わったのは、企業や官庁での女性幹部、国会議員の人数が少ないことが要因にあります。日本の上場企業の女性役員比率は1%程度という数字がありますが、EUではそれを40%まで引き上げることを義務づける法案が検討されています。女性管理職が3割以上を占めると、その会社の業績が急上昇することが前提にあるからです。
なぜ日本では女性の活躍が進まないのか。平たくいえば、女性の教育年数が少ないことが原因と考えられます。女性は出産や体力面などハンディキャップがありますが、それを補うのが勉強なのです。男女共同参画が進んだ国の女性は、資格を取ろうとか、手に職をつけようとか、明確な目的を持って積極的に大学や大学院に行き、教育年数は男性より高くなっています。私は社会人をへて、大学院に行きました。そこでは、活字を通して、ほかの人の知見や情報をたくさん吸収できました。
文字を持たない民族は、家族や民族内など狭い地域でしか知識や経験の蓄積が進みません。反対に文字をどんどん使い、情報を広く共有した国は発展します。活字のない文化は衰え、ある文化は栄える。活字は、人と人をむすびつけることができるのです。ですから、女性には、もっと貪欲に活字に親しみ、情報を手に入れていただきたいのです。
では、具体的にどうしたらよいのか。まずは、有料なものに触れてください。本や新聞は、編集者や記者らが手間暇をかけてきちんと整理してくれているので、文字数の割には情報が詰まっています。いい情報を手に入れるためにはそれなりの対価が必要なのです。そして多読をしましょう。一字一句もらさずに追っていく必要はなく、ぱっと一度に眺めるように読んでいけば速読を習得できます。途中で理解できない箇所が出てきても、前後が分かればそれでよいと割り切って読み進めてください。1か月で100冊を読めるようになります。
そうやって、女性が活字を味方につけて活躍すれば、男性をハッピーに導くことにもつながるのです。日本の中高年男性は長時間労働の弊害で、うつ病や自殺が多く、幸福度は低い。女性が活躍の場を広げれば、その分、男性の負担を軽減させることができるからです。男女が助け合っていけば、日本は好循環に向かい、国際競争力も回復していくに違いありません。

 1968年生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。慶応大学商学部在学中に監査法人に勤務し、JPモルガンなどを経て独立。自己啓発で多数のベストセラーを発刊しており、2005年にウォール・ストリート・ジャーナルの「世界の最も注目すべき女性50人」にも選ばれた。

トークセッション「『伝える力』『聞く力』『読み解く力』」

◇勝間さん×共立女子大学

北村教授 共立女子大学は女性の自立を掲げて、文化の香り漂うここ神保町に設立されました。今回、開催されるセミナーで、活字や女性力をテーマにすることはまことにふさわしいと思います。このテーマを3つに細かく分類すると伝える力、聞く力、読み解く力になります。まず、伝える力から始めます。
 勝間 昨今の日本企業では、伝える力が不可欠となっています。仕事が高度化して、周囲を巻き込んだり、説得したりしなければならない非定型な業務が増えているからです。
 北村 就活や転職の際にも伝える力は必要ですね。
 勝間 ある転職エージェントによると、他の能力があっても、この力がなければ職場でうまくいかないそうです。
 林田教授 海外の先進国では自分を理解してくれないことが大前提となっているので、伝える行為に大変な努力を払います。対する日本は、言わずもがなという風土なので、得意ではありません。しかし、この力を鍛えなければ、国際化が進みません。
 勝間 うまく伝えるためには、相手の考えていることを瞬時に理解して、自分の言葉で表現しなくてはなりません。月並みですが、活字を読むことで養うしかありません。
 林田 私の専門のグラフィックデザインも、一般の方は視覚的なものととらえていますが、実は7割が文字を扱う仕事なのです。文字活字が持つ伝える力は大きい。
 北村 聞く力については、講義を聴講する立場の学生に発言してもらいましょう。
 金子(文芸学部3年) 同じ物事でも、世代によってまったく解釈が異なることがあります。特に、学校は年代の違う先生と学生が一緒にいる学びの場なので、私たち学生は哲学や批評などを通して、上の世代の価値観を勉強しなければなりません。そうすれば、先生方とたくさんの話題を共有でき、コミュニケーションも深まると思います。
 加藤(国際学部4年) 私は、就活でいろいろな業種を回りましたが、初めのころの説明会では、企業の方が言っていることがほとんどわかりませんでした。ところが、事前に新聞や四季報で情報を仕入れていくようにしたら、内容や用語が難しくても、だいぶ理解できるようになりました。事前の準備も聞く力の一部であることを実感しました。
 北村 次に、読み解く力に移ります。私は読み解く力を高めるための3冊を紹介します(●の一覧表参照)。そのうちの1冊が『物語の作り方』。ガルシア・マルケスが若い脚本家や映画監督らと共同でTVのドラマの脚本を作ろうと議論を戦わせた記録です。相手が言うことを読み解きながらストーリーを作っていく過程がありありとわかる本です。
 勝間 私の推薦本は5冊とも翻訳書です。翻訳書を敬遠する人もいますが、読みづらい部分は、読み飛ばして、トータルで内容を理解するように努めれば、最新の知見が得られるはずです。
 林田 『プルーストとイカ』には、読み聞かせを十分に行った子どもは読解スキルが上達するだけでなく、他人を理解する力や豊かな自己表現、推論力をも培っていくと書かれています。また、今日世界にある約3000の言語のうち、文字を持っている言語はわずか78というショッキングな事実も紹介されています。
 北村 最後に、学生から勝間さんに質問はありますか。
 尾堂(家政学部4年) 私は4年間、グラフィックデザインを学び、デザインとは自分の頭の中にある情報や知識を、レイアウトや文字の配置、色、キャッチコピーなどによって伝えていく総合芸術ではないかと考えるようになりました。しかし、私は、就活の自己PRのように文章だけで相手に伝えることが苦手。何か克服法があるのでしょうか。
 勝間 グラフィックデザインの設計と文章を書くことは共通点が多いと思います。例えば、デザインでは余計なものを極力はずしていく作業が大切であるように、文章も余計な言葉や句読点を省き、リズム感をつけることが重要です。自己PRも含めた、人に何か伝える文章を作るのには、今習っているテクニックをそのまま生かすことができます。
 北村 伝える力、聞く力、読み解く力は三位一体。それを女性が身につければ、まさに鬼に金棒と言えますね。
 

共立女子大学家政学部建築・デザイン学科 林田廣伸(はやしだ・ひろのぶ)教授
1952年生まれ。1976年多摩美術大学大学院美術研究科修了。外資広告代理店のアートディレクターとして21年間勤務。日本デザイン学会、日本広告学会所属。

共立女子大学文芸学部文芸メディアコース 北村弥生(きたむら・やよい)教授
1962年生まれ。明治大学大学院法学研究科修士課程修了。デジタル出版業界を経て、2009年から共立女子大学でデジタルメディアに関する演習科目などを担当。

共立女子大学の学生 家政学部4年尾堂萌実さん 国際学部4年加藤綾香さん 文芸学部3年金子千夏さん

◇お薦めの本

勝間和代さん推薦

 

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