大賞ただのぶこさん「ゆるゆる描き続ける」…書店員が選ぶ絵本新人賞

 読売新聞東京本社と中央公論新社が創設した「書店員が選ぶ絵本新人賞」の贈呈式が15日、東京・丸の内の東京会館で開かれた。

大賞を受賞した、ただのぶこさん(11月15日、東京都千代田区で)

 大賞に輝いたのは、ただのぶこさん(76)の「はるさんのユートピア」。同作は「はるさんと1000本のさくら」と改題されて、今月10日に中央公論新社から発売された。

 

 読売新聞東京本社の村岡彰敏社長から賞状と賞金50万円を受け取ったたださんは「本当に驚いています。これからも今までと同じペースで、ゆるゆると絵本を描き続けていきたい」と喜びを語った。

 

 このほか特別賞には、おなのりえさんの「ゆき」、ホッシーナッキーさんとにいたさんの2人による「うちゅういちの たかいたかい」の2作品が選ばれた。

 

 絵本新人賞は、読み手の気持ちに寄り添う「新たな才能」を発掘しようと昨年11月に創設され、第1回の募集に国内外から561作品が寄せられた。

大賞・ただのぶこさん「はるさんと1000本のさくら」

中央公論新社

 たださんは大分県生まれ。大阪の小学校で7年間教べんをとった後、出産を機に29歳で退職した。初めて絵本をつくったのは、長女が2歳になったころだった。「(絵本を)もっと読んで」とせがむ長女を主人公にした物語を考え、手作りで一冊の絵本を完成させた。

 

 頭の中に浮かんだ物語を絵とともに紡いでいく。「絵本づくりって楽しい」との思いが芽生えたが、自分の趣味にして没頭できるほどの余裕はなかった。育児に追われ、50歳からは再び小学校の臨時講師として働く日々が続いたからだ。

 

 しかし60歳で退職した後、ずっと頭の片隅にあった絵本づくりへの思いが再燃した。一から絵本制作を学ぶため、京都市の嵯峨美術大学で絵本講座を受講。週1回、自宅のある神戸から車で1時間以上かけて通い、絵本の描き方から製本方法まで学び、作品づくりを始めた。

 

 完成した作品を製本して孫や近所の子どもたちに読んでもらうと「おもしろい」と評判に。いつしか、新作ができるたびに子どもたちに配る活動が生活の中心になっていた。紡がれた27作品の一作が、受賞作となる「はるさんと1000本のさくら」だった。

たださんインタビュー

信じる道進めば 気づく人現れる

 主人公のはるさんと同じように私自身がおばあさんになり、次の世代に何を残せるか考えるようになりました。そのひとつが、子どもたちに読んでもらえる絵本をつくることでした。

 はるさんは村でたった一人になっても、淡々と桜の苗を植え続け、自分が想像した「理想の街」を後世に伝えようとします。自分が信じる道を静かに進んでいけば、いつかその価値に気づいてくれる人が現れる。普段、当たり前のように眺めている街の風景、1本1本の木にも、はるさんのような人の思いが込められているかもしれない。そんなことを伝えたかったんです。

 私の絵本も長い時の流れの中で、いつか誰かの役に立ってくれれば。そんなふうに思いながら、これからもマイペースで絵本を描き続けていきたいです。

第1回大賞に選ばれた、ただのぶこさん。自宅近くの里山の風景が作品の舞台に生かされている(10月下旬、神戸市北区で)=八木良樹撮影

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