第5回活字文化推進フォーラム〜「成功する読書術 ビジネスマンへのメッセージ」

基調講演「ことばの誕生と読書」

井上ひさしさん(作家・劇作家)

話し言葉だけではダメ〜幼時から読書機会を

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世界のベスト5に入る児童図書館に、(アメリカの)シアトルの市立児童図書館がある。ここで、特徴的なのは、退職した60歳以上の男性、女性がボランティアで支えていること。子供たちは、何か分からないことがあると、図書館に電話し、ボランティアがその電話に出る。

図書館学の竹内哲さんにうかがったところ、例えば「読売新聞はどこの新聞ですか」と子供が聞いたとする。ボランティアは「私は、日本に行ってよく知っているけれども、それは日本の新聞だよ」というふうに自分の知識で答えたら、だめなんだそうです。

まず、ちょっと待たせて、百科事典を調べる。そして「ブリタニカにもコロンビア大百科事典にも、読売新聞は日本の新聞で、本社は東京にあると書いてあるから、これが正しいんじゃないか」というふうに答える。

つまり、情報というものは、情報源が1つではだめ、必ず2つ以上クロスさせ、両方とも合致しているところが、確かな情報ではないかと教えている。

大人たちがどうやったら、子供が本を読むようになるかを懸命に模索している例はまだまだある。

ボローニャというイタリアの都市の児童図書館は全体が迷路になっている。両側は全部本だが、子供が迷うようになっており、要所要所に毎日、開館と同時にプロの俳優がいて、その俳優が静かな声で本を読んでいる。例えば、ダンテの「神曲」。そこで朗読を聞くのもいいし、俳優に道を聞くのもいい。

もう一つ感心したのはヨーロッパではやっている「スポンサー付き読書」です。山本麻子さんの「ことばを鍛えるイギリスの学校」(岩波書店)によると、長期の休暇前に、子供が「私はこの休みに『ドン・キホーテ』を読みます」という宣言をし、近所のおじさん、おばさんと、読み終わったらお金をくれという契約をする。

休みが終わった後、本当に読んだかどうかを試験する会が開かれる。町のおじさんとか司書さんとか、いろんな人が並ぶ机の前に、「ドン・キホーテ」を読んだという少年が入ってくる。そして、彼に読んでいないと絶対に答えられない質問をどんどんしていく。

試験官が確かに、この子は読んでいると判断した場合には、紙にサインし、この子は約束した人々からお金を集める。でも、少年がもらうのはその一部で、残りは、病院に入院している、同じ年ごろの子供たちの治療費に回される。

イギリスでは、読書感想文のような形で、新聞の紙面作りをしてもらい、子供たちが読書や活字に親しむ機会を提供している中学校もあるそうです。

ここで少し話を変えましょう。人間は、チンパンジーと同じくらいの脳の重さで生まれてくる。その後、13、14歳くらいまでに言葉を取り込みながら、脳が育っていく。つまり、脳は言葉を蓄えていく過程で、自我意識を、次に思考力を、そして世界観を備えていくのです。

本を読まずに、話し言葉だけで生活していたらどうなるか。話し言葉には、ほとんど文法規則が使われない上に語彙(ごい)数が少ない。一時期、家に帰ってくるお父さんたちの言葉が3つしかない時代があった。風呂、食う、寝る。本当に語彙はわずかなんですね。

これでは、他の人と議論は何もできない。文法、規則をきっちり使う、語彙をできるだけ豊富にする。豊富にすることで、自分の表現を正確にしていくわけです。相手に理解してもらうには、本を読み、新聞を読むしかないんですね。活字を読む、つまり書き言葉を読むことでしか、身につかない。

ここからが核心の読書の話です。世界で大人たちが一生懸命いろいろな面白い仕掛けを使って子供たちに本を読んでもらおうと苦労しているのは、「実は話し言葉だけで用が足りていると思ったら違います」ということです。人とも議論もできません。

自分の心の中を言葉で理解できるように外へ出す。それを相手が受け取って、自分の中に戻しながら理解していく。話し言葉だけでは、そういうことができないので、大人たちが子供に読書をさせようと努力しているわけです。

デジタルで映像の時代だからこそ、次の世代を担う子供たちに、大人たちが無意識に危険信号を送っているのかもしれません。

井上ひさし(いのうえ・ひさし)さん
作家・劇作家。日本ペンクラブ会長。上智大卒。「手鎖心中」で直木賞、「吉里吉里人」で読売文学賞、「東京セブンローズ」で菊池寛賞、「太鼓たたいて笛ふいて」で読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞。

パネルディスカッション〜「成功する読書術〜ビジネスマンへのメッセージ」

「成功する読書術〜ビジネスマンへのメッセージ」をテーマにしたパネルディスカッションでは、経営の第一線などで活躍中の4人が、読書で得したエピソードやお薦めの読書術などを披露した。(コーディネーターは橋本五郎・読売新聞東京本社編集委員)

■パネリスト

takahide_sakurai.jpg櫻井孝頴(さくらい・たかひで)さん
第一生命保険会長。東京大卒。1987年に第一生命保険社長、97年から現職。2001年から経団連財政制度委員長、2002年から日本経団連評議員会副議長。
yoshiharu_fukuhara02.jpg福原義春(ふくはら・よしはる)さん
資生堂名誉会長。慶応大卒。1987年に資生堂社長、2001年から現職。東京都写真美術館館長、企業メセナ協議会会長。著書に「会社人間、社会に生きる」など。
chieko_hasegawa.jpg長谷川智恵子(はせがわ・ちえこ)さん
日動画廊副社長。聖心女子大中退。日本洋画商協同組合理事長。1995年、日仏交流の功績が評価され、仏政府のレジオン・ドヌール・シュヴァリエ勲章受章。
atsuo_ueda.jpg上田惇生(うえだ・あつお)さん
ものつくり大教授。慶応大卒。経団連広報部長を経て現職。専門は社会論、マネジメント論。社会生態学者ピーター・ドラッカーの研究者。編訳に「ドラッカー名言集」など。

先人の知恵 読み取る

効用について

――パネリストの皆さんは経営などの第一線で活躍され、大変な読書人でもある。活字文化、読書、本がどのようにビジネスに役立つかをお話しいただきたい。

【福原】 これはたとえ話だと思うが、フランスの閣議で、1人の大臣が詩人ランボーの「酔いどれ船」の第一節を暗唱したら、そこにいる大臣が次々と後を継いで完結したという話がある。ビジネスばかりでなく、政治でも、読書は大事であるということをフランス人は言おうとしていると思う。彼らは「日本人はゴルフの話しかしない」と思っているので、食事の時、私が好きなランなどの話をすると喜ばれて、随分仲良くなったことがある。

【長谷川】 絵を売るには、想像力をかき立て、理解してもらうために言葉の表現力が大切だ。特に画廊では絵を見ながらゆっくりとおしゃべりをして商談が進行する。普通は「売る」「買う」と、非常に短く済むことが、絵の場合はゆとりの中で決まっていく。文学、音楽など芸術一般の話がよく出てくるので、読書は大変役に立っている。

画家は絵に精神性を込めるので、読書する方が多い。だから、その画家の好きな本を知っていれば、助けになることもある。

【櫻井】 詩人の荒川洋治が「忘れられる過去」という随筆の中で、文学は「虚学」と思われているが、経済とか医学、法学と同じように「実学」だと言っている。その良い例が、グリーンスパン米連邦準備制度理事会(FRB)議長だ。ウォール街は大統領の発言にほとんど関心を持たないが、グリーンスパン氏には大変関心を寄せる。何を言ったかと同時に、何を示唆したかを考え、グリーンスパンとウォール街は1種のゲームをやっている。グリーンスパンの最大の魅力は、言葉が素晴らしいことだ。

1987年10月19日、ブラックマンデーがあり、ニューヨークの株価が暴落した。翌朝、ニューヨークのマーケットが開く1時間前に記者会見して、「アメリカの中央銀行としての責務は必ず果たす。金は無尽蔵にマーケットに出す」と言った。それを聞いて、アメリカ人は安心して、ブラックマンデーはたった1日で終わった。グリーンスパンは、非常にタイムリーに文学的にしゃべる。常に市場に、ある言葉を投げ込んで、反応を見ながら経済を運営する力がある。リーダーは、ある集団の支持を得るのが大事だから言葉に頼るしかない。リーダーシップは言葉によって成り立つ。

【上田】 経団連(現・日本経団連)に40年前に就職し、事務方をしてきたので、本が仕事道具だった。経済関連の本を翻訳すると勉強になると先輩に誘われ、翻訳チームに入って社会生態学者のピーター・ドラッカーの著作を翻訳するようになり、日本語能力を磨かなくてはならなくなった。今では大学で学生にたくさん本を読ませるために自分が読んでいなくてはいけないという直接的な理由もある。

時代の変化

――長谷川さんはミロ、シャガールやダリにインタビューしている。

【長谷川】 それが本を書いたりするきっかけになった。実は私は「後天的な読書家」で、学生時代はすごく読んだという記憶はない。ところが、30歳代のころに、シャガールやダリのインタビュー記事を寄稿することになって、学生時代のような作文ではいけない、何とかしなきゃと困って、カフカや志賀直哉などを乱読した。

読書は精神的な飢えを癒やしてくれるとか、心を豊かにするとか、ちょっぴり幸せを与えてくれるとか、想像力をたくましくするとか、読む人に与える影響は大きいと思う。人の人生を変えることもある。海底調査船の船医だった人が、米国の精神医学者の本を読んで、ホスピスに自分の人生をささげることを決めた。すごいと思う。

【福原】 岩波書店の創始者岩波茂雄は「書店の仕事は文化の運搬人だ」と言った。人間は元々、思想なり文化を積み上げて今日に至っているわけで、今だって2000年前の本が読める。それを読めば、2000年前の知恵がつまっているわけだし、それを頭にしまい込んでおけば、何かの時にひょいと出てくることがある。

僕は先生や父の影響があって、子供のころからやたらと読んでいたが、本はいくつから読んでもかまわない。読むのも書くのも年と関係ない。

【櫻井】 今日は本の好きな人ばかりの集まりだから、人間はみんな本を読むという錯覚に陥ってしまうが、どんなに努力しても読書嫌いという人はいる。これは恥ずべきことではない。別の方法で社会を正しく見る目を養えればいいと思う。読書は広く世界を知って、総合的な判断や批判力を養うが、物事の本質に迫る手段の1つに過ぎない。興味ある講演会に行ったり、映画を見たり、美術館に行ったり、あらゆる手がかりを元に常に自分のイメージをふくらませ、生涯物事の本質に迫る努力を続けることが大事だ。

日本人がテレビを見る時間は1日3時間10分ぐらいで、文明国の中で最も多い。1か月にテレビを見ない人はほとんどいない。活字文化は映像文化の影響を受けざるを得ない。芥川賞を受賞した「蛇にピアス」は明らかに影響を受けている。読んでいるとテレビを見ているような気になる。一方で、「蹴(け)りたい背中」はあまり影響を受けていない。人によるが、私は圧倒的に「蛇にピアス」の方が面白い。それだけ私も映像文化の影響を受けているということだ。そこの折り合いをどうするかだが、活字文化は映像文化の侵食への対応をやや怠けている。本が1番と言わせるため、出版に関係する人は、現代にあった活字文化のあり方を追求すべきだと思う。

――福原さんは、折り合いをどうつけていますか。

【福原】 1日24時間しかないから、いかに要領よく、くたびれないように配分するかに尽きる。少しでも余った時間に本屋をのぞいてみるとか、さっき読んだ次を読んでみるとか、それの繰り返し。

【上田】 ドラッカーは、産業社会を皆にとって良いものにするにはどうしたらいいかと考えてきた。20歳のころに大学に籍を置いて、証券会社で働き、その後新聞記者になった。その時に記者として知るべきことは全部知ろうと、実にたくさんの本を読んでいる。その結果、29歳の時の処女作「経済人の終わり」には古今の思索家が200人以上出てくる。

【櫻井】 マイペースをいかに確立するかが読書のポイントと思う。私はトイレ、部屋、枕元、車の中、会社に本を積んで、同時進行で平均1日1冊、週5、6冊読んでいる。アクロバチックだが、50年間の経験で出てきた。

【福原】 お金がもうかるというようなハウツー本ではなく、人間の本質に触れるような本を読むのが大切ではないか。荘子の言っている「無用の用」という言葉もある。今、役立たなくても、どこかに入って、ある日突然出てくる。

【長谷川】 家族がテレビをつけていることもない朝5時ごろが、本を読んだり、文章を書いたりするのに適している。そういう時を使って、読まなくてはいけない本や資料を読む。旅行が多いので移動中に本を読むことも多い。

――さきほど控室で、携帯電話を電車の中でいじっている人が少なくなってきたというような話が出た。少し景気が良くなりつつあるという時代の大きな流れと、何か関係があるだろうか。

【福原】 本屋さんは、本が売れないのはテレビのせいだという。テレビ屋さんは、ゲームのせいで、視聴率は右肩下がりだと言う。ゲーム屋さんも、携帯電話のせいだと言うが、その携帯も、飽和状態。みんな人の業界のせいにして自分のところが伸びないと言っている。

本に関しては、最近、新書がたくさん出るようになった。今は1000円以下で名作がいくらでも買える。活字も大きい。ハードカバーの本を電車に持ち込まなくても新書で読めるという時代になってきたのは、いいことなんじゃないか。

影響を受けた本

――大学生は本を読まなくなったと言われていますが、いかがですか。

【上田】 うちは理工系の学生ですが、彼らが読みたがるような本を置いておくと、持っていって読んでいる。今1番読まれている本を研究室に置いておくと、隣の学部から借りに来る学生もいるぐらいだから、心配いらないと思う。

――櫻井さんは71歳。19歳、20歳の芥川賞作家の作品を読むということにびっくりした。

【櫻井】 週末に本屋に行って5、6冊買う。選ぶのに2時間くらいかかる。その作業そのものが楽しみだ。「蛇にピアス」は活字が大きくて老人には読みやすいし、文章そのものが非常に読みやすい。どうやら日本人は映像文化に距離を置き始めたのかな。テレビ一辺倒ではない。

最近、画面が鮮明になると、かえってイメージが浮かばないということに気が付いた。考えてみると、活字と映像が折り合いをつけていたのは、映画が白黒だったころまで、という気がする。小津安二郎も黒沢明も、カラーになってつまらなくなった。画面の鮮明化が、イメージの展開力を奪うという仮説を、私は持っている。映像の鮮明化は、活字が息を吹き返すチャンスなのかもしれない。

――このごろ、インターネットで手紙をいただくこともあるが、文章が粗雑だ。インターネットは、よき活字文化への逆行という気がする。

【福原】 私は手紙、はがき派。本をいただいたら、即日お礼を書く。どなたかに「本を送って翌日にお礼が来るのは2人。1人は司馬遼太郎で、もう1人はあなただ」と言われたが、司馬さんはちゃんとポイントを書いてあったそうだ。

【長谷川】 ヨーロッパと日本の間の売買で、よくインターネットで絵の資料が送られてくるが、これだけではお客さんには売れない。画像は、本物の作品との違いがありすぎる。本物には、ビリビリと来る感激がある。本も同じ。感性を持っている。

――パネリストのみなさんが、影響を受けた本は。

【櫻井】 私は、本を人に薦めない。自分で汗を流して本を見つけるのが1番だから。

【上田】 大佛次郎の「パリ燃ゆ」は、わくわくして本屋に買いに行った記憶がある。「20世紀どんな時代だったのか」(読売新聞社編)は、20世紀をつかんでおかないと、21世紀も分からないということで挙げた。それから、「プロフェッショナルの条件」(ドラッカー)。若い人には、ぜひ読んでほしい。

【長谷川】 あらすじで読む名著という本がはやっているが、最初はネガティブに思っていた。せっかくの文章も、いいところだけをつまんだのでは、雰囲気が出ないのではないかと。そう思いながら読んでみたが、あらすじ本を読んで、どれか本当に読んでみようかなと若い人に示唆するのならいいのではないか。

ホンダ創業者の本田宗一郎さんが出した「俺の考え」という本が最近、愛蔵版として出版されたので、買ってみた。生の声が聞こえるような本で、「人付き合いはジョークから」とか「研究所は博士の製造所ではない」とか、今でも通用するような示唆にあふれた本で面白く読んだ。

【福原】 司馬遷の「史記」は、中国4000年の政治の中で、人間がどう振る舞うのかという知恵が詰まっている。マネジメントに携わるような人は、読んでおいた方がいい。教科書みたいなものだと思う。

学生のころ影響を受けたのは「箴言(しんげん)と考察」(ラ・ロシュフコオ)。あいくちで刺されるような警句が並んでいた。「美徳はほとんど常に仮装した悪徳に過ぎない」「書物よりも人間を研究することが一層必要であろう」「どれほど不幸でなければならないのか。それを知ることは一種の幸福である」。この思想には、随分ショックを受けたものだ。

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」は、ノーベル賞受賞者でカリフォルニア工科大学の学長をしたファインマンの自伝的な本。題名は、ある時「紅茶にミルクかレモン、どちらをお入れしましょうか」と問われ、「両方とも」と答えたというエピソードから取っている。ファインマンは、あらゆることに挑戦する。オペラ、冒険、垣根を乗り越えたり。ノーベル賞学者は、勉強ばかりしているわけではない。

工夫あれこれ

――ふつうのビジネスマンは読書の時間をなかなか作れない。そっと教えたい読書術のようなものはあるか。

【櫻井】 保険会社的に言えば、私の残りの寿命はあと14年。どれだけ読めるのか不安感がある。効率的にせざるを得ない。本に多くを期待しない。最初から最後まで読む本はほとんどない。

強調したいのは、作品にはほれるが作家にはほれないということだ。優れた文学者とか評論家は、他の人に比べれば、愚作を書く打率が低いだけの話だ。自分の名作を足を使って探す。死ぬまで名作を書いたのは谷崎潤一郎くらいではないか。

【上田】 2つ読み方があると思う。自分の関心のあるテーマを2、3年徹底的に追求する。もう1つは、自分の知らない別の世界の本を書名で判断せずに読む。岩波のかつての100冊だとか。ドラッカーで言うと、「産業人の未来」という本があるが、書名を超えたすごい本だ。

【長谷川】 私の場合、海外旅行が多いので、飛行機の中で半分は本を読んでいる。隣の人が話しかけてくると、せっかく読みたいのに困る。ちょっと知らんぷりするか、寝たふりをする。

【上田】 行く当てもなく電車に乗る。遠くまで行って、乗り換えて帰ってくる。もしくは、3時の待ち合わせなのに1時に行って、「遅い、遅い」と待ちながら読む。相手が来ると「もっと待たせてくれてもよかったのに」と思う。家にいるよりもずっと読むのがはかどる。

――電車は読書が進む。振動が体に合うのかな。福原さんは座って読むのか。

【福原】 いろんな格好で読む。かしこまって読んだら疲れちゃう。私の場合は乱読だ。送られてきた本も読むし、衝動的に本を買う。衝動的に物を買うのはユングの心理学から見てもいい治療法だという。結果としてあらゆる本を読むことになる。

【櫻井】 ドラッカーは、第1次大戦後の価値観が揺らいだ時に勉強したという話だった。冷戦後の今、価値観の揺らぎがひどくなっている。世の中をどう見ていいのか分からない私のような人間は、情報に飢えている。だから毎日テレビを見て新聞を読む。世界がシンプルでなくなり、死ぬまで迷いの中にいると思う。今日のテーマは「成功する読書術」だというが、そんなものはあるわけがない。自分で見つけるしかない。多分、生涯見つからないと思う。そういう揺らぎの時代、過渡期の旅人のガイドになるのは、私にとっては活字文化しかない。

【長谷川】 ビジネスマンには、必ず挫折を感じる時がある。挫折を乗り越えることを、先人の本の中から学ぶのが有意義だと思う。

――今日は面白く進行させていただきました。ありがとうございました。

こんな本、いかが

井上ひさしさん

「新版 哲学・論理用語辞典」(思想の科学研究会編/三一書房)
「類語大辞典」(柴田武ほか編/講談社)

上田惇生さん

「20世紀どんな時代だったのか」シリーズ(読売新聞社編/読売新聞社、中央公論新社)
「プロフェッショナルの条件〜いかに成果をあげ、成長するか〜(自己実現編)」(P・F・ドラッカー著、ダイヤモンド社)

長谷川智恵子さん

「大黒屋光太夫 上・下」(吉村昭著/毎日新聞社)
「約束の冬 上・下」(宮本輝著/文芸春秋社)

福原義春さん

「箴言と考察」(ラ・ロシュフコオ著/グラフ社)
「史記」(司馬遷著/岩波書店ほか)
「ご冗談でしょう、ファインマンさん 上・下」(リチャード・P・ファインマン/岩波書店)

(2004/02/17)

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