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イベント情報

2012/12/25

学校図書館げんきフォーラム@東京学芸大学

■出演
海部宣男さん(国立天文台名誉教授)

「学校図書館げんきフォーラム」が11月10日、東京都小金井市の東京学芸大学キャンパスで開かれ、約400人が参加した。「科学と学校図書館の未来」という全体テーマに沿って、第1部では、同大教員らが公開授業を披露。第2部では、海部宣男・国立天文台名誉教授が「科学を伝える」をテーマに基調講演を行った。それに続くパネル討論では、科学コミュニケーションと学校図書館の関係などについて話し合われた。さらに、「教育の情報化と次世代型読解力」という展示も開催された。


 
 公開授業 


 第1部の公開授業では、「学校図書館入門」という通常講義を受講している東京学芸大学の1年生24人が壇上に上った。同大学の前田稔准教授が「3・11以降、専門家と子供たちとの間の科学をめぐるコミュニケーションがいっそう必要となった。そんな時代に学校図書館や教師に何ができるかを考えたい」と話した後に授業が始まった。
 第1限の講師は、同大学の成田喜一郎教授と早稲田大学の難波美帆准教授。成田教授は『このよで いちばん はやいのは』という科学絵本を導入用教材として使用。この絵本の問いかけに対して、学生から予想される回答を引き出していった。続いて、難波准教授が「科学コミュニケーションって何?」というテーマで解説。「科学は人類が対話しながら脈々と積み重ねてきた思想体系。現代は、あらゆるものに人間の手が加えられ、存在しなかった物質も作り出されるようになってしまった。そのような専門家でも判断しがたいリスクが存在する社会では、専門家と一般市民の橋渡しをする科学コミュニケーションの重要性は増している」などと話した。
 第2限のテーマは「科学コミュニケーションを育む理科授業の試み」。東京学芸大学の対崎奈美子特任教授と香川県小豆島町立安田小学校の岡亨教諭が講師を務めた。安田小は今年の4月から東京学芸大学の「デジタル教科書実践研究協公開授業 東学大2.jpg力校」となっている。岡教諭は小6の理科で、従来の教科書に加え、デジタル教科書や百科事典サイト、学習ソフト、DVD、パンフレットなどを使って調べ学習を行っている。子供たちにデジタル教材の画像や動画を見せ、「なぜ、崖にしま模様ができるか」などを考えさせる授業風景がビデオで再現された=写真=。
 岡教諭は「事前に動画を見せることで、実験が予想以上にスムーズに進んだ。多様な教材を使うことで、子供たちは楽しみながら授業に参加し、理科への興味も深まった」と話した。岡教諭が発表した後は、対崎特任教授が壇上の学生から意見を求めた。ある学生は「科学はかなりの勉強をしないと、新分野を理解するのが難しいので、科学コミュニケーションが生まれたのだと思う。岡先生の授業を見て、デジタル教材や各種の視覚的教材は、その補助に役立つと感じた」という感想を述べていた。


 
 基調講演 
 

 「知りたがり」が未来を開く


 ◇国立天文台名誉教授 海部宣男氏 海部宣男 東学大2.jpg
 科学の成果をどう社会に伝えるかは、科学者にとって今も昔も大きな課題です。市民にもわかるようにと、ラテン語ではなくイタリア語で『天文対話』などを書いたガリレオ・ガリレイを科学コミュニケーターの祖とするならば、本格的に科学を広く伝え始めたのはマイケル・ファラデーと言えます。ファラデーは1820年代から、王立研究所に一般の人や子供を招き、公開実験や講演を続けました。子供向けのクリスマス講演は、『ロウソクの科学』という本でも知ることができます。このように近代科学は欧米社会の中で生まれ、自然に社会との交流が育まれていったのです。
 一方、日本の科学は富国強兵のために輸入された、いわば官製のもの。随筆によって興味あふれる科学の実相を伝えた寺田寅彦などの一部の人々を除けば、一般社会と科学とは縁が遠かった。現在の教育現場でも、最近の国立教育政策研究所の調査では、日本の中学2年生で「理科が楽しいと強く思う」と回答したのはわずか18%。国際平均値の半分にも満たなかったのです。小学生は世界水準に達しているのですが、中学、高校とだんだん理科が好きでなくなる傾向が顕著でした。「理科の勉強は日常生活に役立つ」と答えた中学生は、調査国中で断然の最下位。半数近くが、理科は自分に役立たないと考えているのです。
 さらに深刻なのは大人の理科離れ。日本は明治以来、理系が軽視された文系国家で、科学の専門家が活躍できない社会だったことが背景にあるのです。私は何も、理系を優遇せよと言っているわけではない。大切なのは、日本社会と科学がもっと近づくこと。さまざまな試練に直面するこれからの地球で、社会の一人ひとりが科学や自然の理解と判断力を磨くこと。「知りたがりの動物」である人間は、その特性によってしか、困難な未来を切り開けないのです。私たち科学者も、ガリレオやファラデーの精神を引き継ぎ、研究の成果を社会に返さなければならないと思っています。
 

かいふ・のりお 1966年、東京大学教養学部基礎科学科卒。ハワイ観測所所長としてすばる望遠鏡を完成。国立天文台台長、放送大学教授などを歴任し、2012年から国際天文学連合会長。受賞歴に日本学士院賞など。「世界を知る101冊」など著書多数。現在、「アジアの星・宇宙の神話伝説プロジェクト」に取り組んでいる。


 
 パネル討論

 デジタル教材 読む力を 


 ◇藤井健志氏 東京学芸大副学長(司会)
 ◇小川三和子氏 新宿区立津久戸小学校司書教諭藤井健志 東学大2.jpg
 ◇難波美帆氏 早大准教授
 
 藤井 討論は「科学コミュニケーション」「デジタル教材」「学校図書館」「次世代型読解力」という四つの関連するキーワードに基づき進めます。司書教諭の小川さんから、最先端の学校図書館事情やそこで科学教育、理科教育をどのように行っているかを伺います。
 小川 学校図書館は、読書の場から学びの場へと大きく変貌しています。豊富な資料や新聞、教材などを備えて、探究型学習のために活用することが求められているのです。本校(新宿区立津久戸小)でも各教科で積極的に利用し、3年生の理科では、学校図書館でアリをルーペで観察してから、図鑑を使って昆虫の体について学習しました。4年生は、人体に関しての研究発表会を行いました。
 藤井 教員や司書教諭も科学を伝える役割を担うのですね。
 小川 昆虫の授業の後には、昆虫の本や科学物語を読み聞かせたり、関連の本を紹介したりすることで、読書の幅を広げることもできました。
 藤井 小学生は好奇心が旺盛のようです。しかし、先ほど海部さんが指摘した通り、成長するに従って、それがなくなる。大学で教えている難波さん、そのあたりはいかがでしょうか。
 難波 大学生の科学離れはもちろんのこと、科学者にも深刻な問題が生じています。同じ学科でも、隣の研究室の教員が何をしているのか知らないケースが少なくない。科学が細分化しすぎて話が通じない。
 海部 日本の科学雑誌が貧弱なのは科学者が読まないからだという指摘がありますが、深刻な真実だと思います。
 難波 アメリカには、AAAS(アメリカ科学振興協会)という組織があり、科学者間の協力を促進し、科学界から情報発信を行小川三和子 東学大2.jpgっています。日本でもそのような活動を活発にするには、科学コミュニケーションを行う「場」を作ることがひとつの課題。図書館などはそれに非常に適した場所だと思います。
 藤井 ところで、教室や学校図書館に、デジタル教材が急速に浸透しつつあります。教育現場ではどう対応しているのでしょうか。
 小川 新宿区立の小中学校では、ICT(情報通信技術)に力を入れています。各教室に無線LANが引かれ、子供たち全員がノートパソコンを使える環境になっているのです。パソコンを使って調べる学習も積極的に行っています。
 難波 デジタル教科書は、積み重ねの学習である数学や科学に親和性が高い。読んでわからないところがあったら、そこをタッチすると前に戻って勉強し直すことができるからです。動画とか3Dが見られるところもメリット。
 藤井 逆に心配な面もあります。理科の実験や観察を例に取れば、デジタル教材は良くできているので、授業がスムーズに進みすぎます。失敗によって学ぶことがあってもいいのでは。
 海部 私もたくさんの失敗をしました(笑い)。デジタルの素晴らしいところは、世界中の資料や情報が瞬時に入手できる点。しかし、ネットの世界は玉石混交です。その玉と石をどう見極めるのか。特に科学の分野では、情報の価値判断は重要です。学校でも教えてもらいたい。難波美帆 東学大2.jpg
 難波 確かに、いまは子供たちでもエログロのようなものにも簡単にたどり着くことができる。そのような「負の教材」を排除していくようなリテラシーを養う教育が大切です。
 藤井 いろいろな課題を抱えつつも教育現場はデジタルの方向へと進んでいます。3・11以降の混沌(こんとん)とした時代に向き合わなければならない次世代にとって、新しい読解力をどう身につけたらよいのでしょうか。
 小川 次世代型といっても、基本は活字を読む力。本は著者らが構成を考え、責任をもって著しているので、読書することで考察力が高まります。
 難波 若い人には、新しいものをどんどん創造していってもらいたい。デジタルの消費にお金を費やすだけではなく、価値や富を生み出してほしい。
 海部 ネットに振り回されないこと。信用できそうな情報には近づいて深め、根拠や参考資料のないものは切っていく。
 藤井 次世代型読解力とはまだ一般には耳慣れない言葉ですが、デジタルとアナログの長所短所を踏まえながら、2種類の教材を総合的に読解する力をこう呼ぶことにしましょう。デジタルに偏ってしまうのではなく、本を読むとか、実験を行うといった従来型の教育方法で蓄積された教育現場の知見も生かしていく必要があると思います。
 

ふじい・たけし 1984年、東京大学大学院博士課程単位取得退学。86年に東京学芸大学講師、99年に教授。2012年から現職。専門は宗教学。
おがわ・みわこ 1975年、東京学芸大学卒業後、小学校教諭として学校図書館に携わる。著書に『教科学習に活用する学校図書館』など。
なんば・みほ 1995年、東京大学農学部卒。講談社、科学ライター、北海道大学准教授を経て、2010年から現職。専門は科学技術コミュニケーション。

 主催 東京学芸大学、活字文化推進会議
 主管 読売新聞社
 後援 日本教育大学協会、文字・活字文化推進機構、全国学校図書館協議会、教科書協会
 

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