21世紀活字文化プロジェクト

トップ >  活字文化公開講座 > 大東文化大学 「本との出会い 読書の楽しみ」/中江有里、石田衣良

活字文化公開講座

2015/03/25

大東文化大学 「本との出会い 読書の楽しみ」

■出演
中江有里(女優・作家)
石田衣良(作家)

読売新聞社が21世紀活字文化プロジェクトの一環として実施する「活字文化公開講座」(大東文化大学、活字文化推進会議主催)が11月8日、大東文化会館(東京都板橋区)で開かれ、約200人が参加した。テーマは「本との出会い 読書の楽しみ」。女優で作家、脚本家の中江有里さんが「本を書く楽しみ 読む楽しみ」のタイトルで基調講演。また、同大学の太田政男学長をコーディネーターに、中江さんと作家の石田衣良さんがトークセッションに臨み、本の読み方や本の魅力を巡る話題で会場を楽しませた。

 

 

 

基調講演 中江有里さん


 

本を書く楽しみ 読む楽しみ/自分に合う1冊 あるはず/ホームシック 小説読み克服


 本を読むことは楽しいことですが、時間がかかるし、活字に慣れないと、結構、苦しくもあります。中江有里20150325.jpgでも、ぜひ読書の楽しみを分かち合いたい。
 読書の動機には、大きく分けて「娯楽」「勉強」「慰め」の三つがあると思います。
 まず娯楽としての読書。私が本を読み始めたきっかけは、子どもの頃に遡ります。文字がまだそれほど読めない頃、文字自体に興味を持ちました。形が面白いし、何か意味があるのだろうなと考えると想像力をかき立てられました。小学生になって、図書室、図書館の存在に気が付きました。そこに行けば、大好きな活字が並ぶ本があるということで、いろいろな本を読むようになりました。
 私の両親はゲームやおもちゃの代わりに、本を買ってくれました。月に1度、デパートに行くと、1冊好きな本を買ってもらえました。どんどん本が書棚に並んでいきました。眺めていると、本を買ってもらった光景まで思い浮かび、うれしくなったものでした。
 二つ目の動機、勉強としての読書ですが、何かを知りたいからということで読む。専門知識を得るために読む。「何々力(りょく)」とか「何々の力(ちから)」という本が多いと思いませんか。「老人力」とか「悩む力」とか、「聞く力」とか。読者が本に対して力というものを求めているからだと思います。
 「自身の人生を変えた本はありませんか」と、取材で聞かれることがあります。私の場合、影響は受けても人生を180度変えたようなものはなくて、実際はせいぜい30度くらいなもの。でも、読者はそういう力を本に期待しているのだと思います。自己啓発本の人気が高いのは、人格、仕事、家庭、学業を含めて、よりよいものにしたいという意欲のある方がいるからでしょう。
 そして、三つ目の慰めとしての読書。自己啓発本のように高めるというのではなく、プラスにはならなくても、マイナスになっている自分を元に戻すような力を持つ本があります。
 私は高校1年生の時、芸能界入りしました。故郷の大阪から一人上京して、ひどいホームシックにかかりました。孤独で、関西の言葉に触れたいと思ったとき、書店で宮本輝さんの「道頓堀川」「泥の河」が目に入った。関西を舞台にしたお話で、涙なしに読めなかった。帰れなくても、「ここに自分の関西がある」と思うだけでほっとできて、ホームシックを乗り越えさせてくれました。
 現代詩作家の荒川洋治さんが書いていますが、読書を続けることは観察心を養うことにつながると思います。本を読み続けていると、1年前に分からなかったことが、今は分かる、という経験をします。
 読書というのは、「読む」と「書く」が合わさっていますが、双方は切っても切り離せない関係だと考えています。よい文章に出会っても、自分がよい文章を書けなくては、それに気付くことはできません。
 私自身、脚本を書いたり、書評を書いたりします。本って、読むだけの楽しみではなくて、書くことにもつながっていて、書いていると、自分はもっと言葉を必要としているんだな、じゃあ、また今度読んでみよう、となっていきます。
 読書は自転車と似ていると思います。教わるより、まず乗ってみる。最初はダメでも、バランスをうまくとれるようになれば、爽快感やスピード感は自分だけのもの。まず読んでみましょう。自分に合う本がどこかにあるはずです。


  
トークセッション 

中江有里さん 石田衣良さん コーディネーター 大東文化大学学長 太田政男さん

本は心のとりで


 太田 石田さんの「池袋ウエストゲートパーク」などを読みました。池袋は暗い街と言われていましたが、今、住みたい街ランキングで、吉祥寺、恵比寿に次いで3位となっています。石田さんの功績では。
 石田 たまたま遊んでいたからなんですよ。六本木を書いている人はいるし、新宿は大沢在昌さんの「新宿鮫」という刑事物があって、じゃ、池袋でいいかって。
 中江 そんな発想だったんですか。
 石田 そうなんです。
 太田 中江さんは1年に300冊読まれるそうですね。
 中江 石田さんとは以前、「週刊ブックレビュー」というテレビ番組で初めてお目にかかりました。週1回の放送で、毎回4冊の本を読む課題がありました。石田さんや本をよく読まれる方々ばかりで、読まないとあの場にいられないと必死でした。

逃げ場


 石田 どん石田衣良20150325.jpgなものでも、一回そこの世界に溺れて、訳が分からないぐらいはまらないと、うまくならない。ですから、本はたくさん読んでほしいな。小説を書いている間、人の本を読めないので、それがちょっとつらいですね。
 中江 小説家になる前はどうでしたか。
 石田 暇な時は必ず読んでいました。この社会とか世界って、そんなに面白くないじゃないですか。だから、逃げ場を作っておく。正気でいるためには必要なことですね。
 中江 逃げ場というのはよく分かります。自分も10代の頃は、息苦しい時に本を読むことが多かった。
 石田 僕は学校が嫌でたまらなくて、小説に逃げていました。翻訳物のミステリーやSFでした。1日3冊ぐらい読んでいました。
 太田 書く時、取材はどうしていますか。
 中江 私は取材というより、普段の生活の中で話を聞いたり、興味のある所へ足を運んだりすることが多いです。
 石田 僕は取材が大嫌いなんです。構想10年とかで、その間に山のような資料を読み込んだというような人がよくいますけどね。理想を言えば、自分の中だけにあるもので、小説を作りたいなと思います。
 中江 書くことがないということはありますか。
 石田 書いている作品は少しずつ進んでいるのに、その世界が分からなくて途中で筆が止まるということはあります。頭の中にキャラクターも世界もできているのだけど、体ごと入り込まないと書けない。途中で止まって押しても引いても動かなくなって、2、3週間後にまた書き始めて、文章をつなげていく。1冊書き上げた後、どこでどうして止まっていたのか、もう覚えていないのですが。

誇り

大田学長20150325.jpg
 太田 石田さんは作品に、子どもや若者が絡む事件を取り込みますね。
 石田 自分が今でも迷っているからだと思います。どう生きていこうかとか、社会に自分の居場所はあるのかとか、自分は本当に価値のある人間なのかとか。一番悩んでいた10代後半から20代初めのヒリヒリした感じを引きずっているのだと思います。
 太田 石田さんの作品には、傷ついていたり、悩んでいたりして、それでいて魅力のある若者が登場します。
 石田 底辺から滑り落ちてしまったら浮かび上がれない、みたいな言い方をみんなします。だけど、自分の価値観や誇りを持って生きれば、新しい生き方が見つかるのではないかと思うのです。そういう誇りを作るのも、作家の大切な仕事かと思います。本は心のとりでになります。これだけは傷つけさせない何かを作り上げるのに、読書はいいかもしれませんね。
 中江 今の大学生はあまり本を読まない、と言われていますね。
 太田 私は文学というのは総合的な人間学なんだから、本を読みなさい、と言っているんですが。
 石田 一番悪いのは、久しぶりに本でも読もうかと考えて、ネットでランキング1位の本を読むようなやり方。自分のセンス、読書経験というのは、世界で自分一人だけのもの。それを無理にみんなに合わせることはしなくてもいい。


  
   
面白くない本は… 「時間置いて」「すぐやめる」 

 
 会場 自分に合わないと思った本はどうしたらいいのでしょうか。
 中江 私はなるべく頑張りますが、無理なら途中でやめることもあります。面白くない本は、まだ自分の理解のレベルがそこまで及んでいないのかもしれません。時間を置くのもいい方法だと思います。
 石田 僕はすぐにやめた方がいいと思うな。何度かデートした相手がつまらない。それでも、何かあるかもしれないと付き合い続けてもダメでしょ。早く次に行きましょう。
 会場 10代の息子が漫画ばかりで、本を読もうとしません。興味を持ちそうな本を与えても、面白くないようです。
 中江 本を読まないとできないことがこれからたくさん出てくると思います。過去を振り返ったとき、本を読んでいたことで、何か思うことが出てくるかもしれません。親が本を与え続けるというのは、大切なことだと思います。
 石田 本を読むことは、教養や心の成長という話になりがちですが、それだけではありません。米国での統計によると、本を読む家庭は豊かで、読まない家庭は貧しいという結果が出ている。「これを1冊読めば1000円もうかる」と言って読ませたらどうでしょうか。

 

◇なかえ・ゆり 女優・脚本家・作家、活字文化推進会議サポーター委員。1973年、大阪生まれ。89年、芸能界に入り、映画、ドラマに出演。2002年、「BKラジオドラマ脚本懸賞」で最高賞を受賞し、脚本家デビュー。読書エッセー、書評も数多く手がける。
◇いしだ・いら 作家。1960年、東京生まれ。成蹊大学卒業後、広告制作会社勤務を経てフリーのコピーライターとして活躍。97年、「池袋ウエストゲートパーク」でオール読物推理小説新人賞を受賞。2003年、「4TEEN フォーティーン」で直木賞受賞。

 

ページのトップへ

活字文化公開講座

2014年度

2012年度

2011年度

2010年度

2009年度

2008年度

2007年度

2006年度

2005年度

2004年度

2003年度