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読書教養講座

2005/11/16

モヤモヤとした感情、分析し文章に変える

■出演
馳星周さん(作家)
東山彰良さん(作家)

 読書の素晴らしさを伝える「読書教養講座公開授業」が11月5日、福岡市の西南学院大学で開かれました。

  読売新聞西部本社の菊池卓雄編集局長が「世界に誇る文化国家であり続けるため、活字文化を衰退させてはならない」とあいさつ。公開授業には大学生や市民計約250人が参加し、作家の馳星周さんが「作家の誕生」と題して講演しました。

  馳さんは「小説家になる近道は、たくさん本を読むこと」と強調。同大大学院OBで作家の東山彰良(あきら)さんとも対談し、学生に対して「(読書すれば)いろいろな発見があり、人生が豊かになる。気軽に読んでほしい」と呼びかけました。

西南学院大学 読書教養講座 一般公開授業

基調講演「作家の誕生」/馳星周さん

20051116_01.jpg 小説家には二つのタイプがあります。一つは若い時から切磋琢磨(せっさたくま)して、夢を実現した人。もう一つは成り行きでなった人です。小説でも書くか、小説を書くしかないかという感じで、私は、その『でも・しか作家』です。

 子供の時から家にこもって本ばかり読み、中学、高校生くらいから、ハードボイルドとか冒険小説にはまりました。大学で東京に出て、新宿のバーでバイトをしました。そこには作家や編集者もよく来ていて、小説家は経済的に全く割に合わないことが分かりました。

 10万、20万部売れるベストセラー作家はごく一部です。ほとんどが初版何千部で、報酬で計算すると100万円にならないのです、1冊を書くのに半年費やしても100万円、年に2冊出しても200万円。これじゃ食っていけない。

 小さな出版社に入りましたが、つまらないのでフリーライターになりました。自分は文章を書くこと以外はできない、小説でも書くかということで書き始めたわけです。ですから『でも・しか作家』なんです。

 多くの本を読んでいたので、小説をどう書けばいいのかということは、自然と身体に染み付いていました。そのころ中華料理店に、中国人がなだれ込んで、店員を刺す事件がありました。香港映画にもはまっていたので、中国人のものの考え方がわかったような気もしていました。それで新宿の中国人社会を舞台に『ノワール』を書こうと思いました。

 夜の空いた時間に少しずつ書きました。何度か挫折しかけました。誰にも言いませんでした。駄目だった時のことを考えると、怖かったのですね。

  まる1年かけて「不夜城」を書き上げました。400字詰めの原稿用紙にして800枚。当時の新人賞の上限枚数は、500〜600枚でしたが、どこも削りたくない。新人賞をもらってデビューしようという思惑は崩れ去ったわけです。

20051116_02.jpg そこで角川書店の編集者のところに持ち込みました。でも、持ち込み原稿は腐るほどあるのです。永遠に読まれない可能性もあります。ところが、その編集者は、2か月後に「出版する」と言ってくれました。運も実力と言いますが、僕が小説家になったのは運があると思います。

  その後、ラストシーンを変えてほしいと言われました。僕は断りました。なぜならあのラストを書きたくて、1年間孤独な闘いを続けてきたんです。あのラストが作品のすべてなんです、と徹底抗戦しました。

 何とか通りましたが、こういう暗い救いのない小説は読者に受け入れられないだろうと思っていました。一部でわかってくれて、少しずつでも仕事が来ればそれでいいと思っていたのです。

 編集者が頑張ってくれて、8000部刷ってくれました。出版してみると、一躍ベストセラーになり映画化も決まり、そのおかげでさらに本が売れました。

  人の心を動かすのは、その小説家が内に抱えているモヤモヤとしたネバついたどろどろとした感情です。そのモヤモヤを自分で見つめ分析して文章に移し変える人間が作家だと思います。

対談

パネリスト
馳星周さん(作家)
東山彰良さん(作家・西南学院大学講師)

コーディネーター
新谷秀明さん(西南学院大学教授)

純文学にも『ノワール』はある たくさん本読み映画見て

20051116_03.jpg【東山】 『ノワール』と言われましたが、悪いやつらが悪いことをして、最後は破滅する物語と思っていいですか。

【馳】 ノワールを説明するのは難しい。暗黒街が舞台であるとか、普通のモラルから逸脱した人たちが登場する物語である必要はない。普通の人が目を背ける現実の悲惨さであるとか、人の心に巣くっている闇、そういったものを書こうとするジャンルです。だから純文学のなかにもノワールはある。

【東山】 馳さんの作品は一つのスタンダードになっています。

【馳】 「不夜城」がスタンダードとかいうのは他人の評価。おれとしては未熟な作品だと思っている。多分、デビュー作というのはいろんな熱気がこもっているから、支持されたんでしょう。それに縛られるのもつまんない。

20051116_04.jpg【会場からの質問】 胸のモヤモヤを書くということと、読者に面白いということのバランスは。

【馳】 エンターテインメント小説を書いているという自覚があるので、そこはバランスを取りながらやっている。自分のモチベーションだけで創作をしたければ、発表しなくてもいいんじゃないかという気持ちもあるのね。

 読者というのは、いてくれなければ困るけれど、実はうざったいな、という存在なんだよね。読者がいるから自分が表現したいことを、ある部分殺さなきゃいけないところもある。それでも80%から90%は表現しているから、そんなに苦しんだりするということはないです。

 連載を書いている時は締め切りがあるから、とにかく書いちゃえとなる。連載を単行本にする時に、時間をとってもう一度書き直すので、そのとき結構バランスを取っているみたいな部分もある。

20051116_05.jpg【新谷】 読書についてのメッセージを。

【馳】 もっと気軽に読めばいいのにと思うんです。そうすればいろんな発見があるはず。1日30分でもいい、本を読む時間を作ればもっと人生が豊かになるはずです。

【東山】 大学生なんだから、たくさん本を読んで、たくさん音楽を聴いて、たくさん映画をみて、男の子であればたくさん女の子と付き合って、女の子であればたくさん男の子と付き合ってください。

(2005/11/16)

seishu_hase.jpg馳星周(はせ・せいしゅう)
北海道生まれ、横浜市大卒。出版社勤務を経て96年「不夜城」でデビュー。吉川英治文学新人賞を受賞。「不夜城」につながる三部作「鎮魂歌」「長恨歌」など。近作は「楽園の眠り」。
akira_higashiyama.jpg東山彰良(ひがしやま・あきら)
台湾生まれ、西南学院大学経済学部大学院を修了、中国に留学。02年宝島社の第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞、「逃亡作法」という題名で出版された。「ラム&コーク」「さようなら、ギャングランド」などの作品がある。同大学講師。 

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