21世紀活字文化プロジェクト

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読書教養講座

2008/12/03

「読書教養講座公開授業」in近畿大学 山田太一さん、自分主役に部分読み

■出演
山田太一さん

 読書の喜びを伝えようと、読売新聞社が進める21世紀活字文化プロジェクトの一つ、読書教養講座の公開授業(活字文化推進会議、近畿大学主催)が15日、大阪府東大阪市の近畿大学で開かれ、学生と市民約200人が参加した。脚本家の山田太一さんが「体験・演劇とTVと小説と」と題して、映画、テレビドラマ、舞台、小説の違いを自らの体験をもとに講演した。続いて、同大学文芸学部教授の佐藤秀明さんと対談、作品誕生のきっかけや読書のあり方などについて語り合った。

講演「体験・演劇とTVと小説と」

 出発は映画です。松竹に入って助監督になった。ちょうどテレビが増えてきたころ。当時のテレビドラマの多くは舞台劇と映画の模倣でしたが、若い社員たちはテレビ的なドラマがあるはずだと、意欲的な試みをしていました。私は木下恵介監督についていた。監督が映画をやめて、テレビの30分ドラマを毎週作ることになったのですが、脚本を書く人がいない。ある時、「君、やめるか」と言われて、テレビへ移ったんです。山田太一HP.jpg
 
 初めはすごく自由感があった。あらゆる試みができた。でも、テレビも制約がある。多くの視聴者の好むものとなると、暗いものはダメなんです。何となくうっ屈してきた時に、ある新聞社から小説を書かないかという依頼があった。戦後の家族が社会の変化にどう影響されたのかを書いてみたかった。一戸建てを持つことが男の私生活の最大の目標になり、大学に行くのが珍しくなくなった。お父さんは忙しい。家族はバラバラ……。そんなことを一家族に集約して描いたのが『岸辺のアルバム』です。これをテレビ局に企画として出してもたぶん、通らなかったでしょう。新聞で権威づけられたから、その後、テレビドラマになったように思います。

 それからしばらくして舞台の脚本を書いた。舞台げいこを見てもおもしろくない。なのに初日、客席がワーッと沸く。終わってみたらすごくいい芝居に思えてきた。舞台というのはこんなにも客が支えているんだと。舞台では、あまり日常的な言葉で続けていくとおもしろくない。セリフが抽象性を帯びる。そこがテレビドラマと違う。

 私は映画の脚本をほとんど書いてないけれど、数少ない中に『少年時代』があります。その脚本を読んだ人が「これって手抜きって言われない?」と言う。映画は集中力がある。テレビとは見る環境が違う。テレビは説明的になる。映画は手抜きと言われるくらいセリフが少なくていい。

 一方、小説は現実にはあり得ないような物語も書くことができる。メディアによって自分の内部から浮上してくるものが違うんです。テレビドラマはリアリズムが基本。ところが小説は、『異人たちとの夏』のように、自分のふるさとで死んだ両親と会うという、テレビドラマの時には考えなかったようなことが書きたくなる。メディアというのは、それ自身の持っている幅があるような気がします。

 私は空虚な時間は読書で埋めるように本を読んできた。ただ、あまり読書に偏り過ぎると自分でなくなってしまう。それで、何かかき立てられるものがあったら、そこで読むのをやめてしまう。全部読まない。おもしろそうなところだけ読む。そうすると自分を主役にできる。読書の主人公はあくまでも自分なんです。

対談 近畿大学文芸学部教授 佐藤秀明さんと

 【佐藤】 代表作の『岸辺のアルバム』についてうかがいたい。初めは新聞小説だった。多摩川の氾濫(はんらん)をとらえて、小説になるかもしれないと思われたんでしょうか。
 
 【山田】 戦後の男の最大の目標が一戸建てを建てることだった。それが川の氾濫で流されるのを見ていて、絶対に何かになるぞと思いました。そこで3家族の方に、話を聞いた。家が流される時、まるで死ぬ子をみとるように話すんです。これは大変なことだなと。築いてきたものがすべてなくなる。そこからもう1回やり直そうという話を書けると思った。

 【佐藤】 若い時には、男が一生かかって実現するのが家だという所に意識が行き着かなかった。今50代になって改めて読むと、家の心配をする父親に感情移入してしまう。

 【山田】 年齢によって受け止め方が違う。

 【佐藤】 講演の中で、メディアによって自分の内部から浮き上がってくるものが違うという話が出ました。『異人たちとの夏』はこれぞ小説だ、文学だと思いました。リアリズムではなく、両親が幽霊として出てくる。ラフカディオ・ハーンの影響ですか。

 【山田】 小さなものの不合理な思いが駆逐される社会になっている。でも、そこに豊かなものがあるというのがハーンの見方です。それは今の時代でも魅力的なテーマだと思います。佐藤HP.jpg

 【佐藤】 はかなさと明るい存在感に感銘を受けた。浅草という場所でしょうか。

 【山田】 私は浅草生まれです。あの時は、テレビドラマを書き終わって、もう何も考えられない状態だった。それで浅草に行ってその夜、軽演劇場に入った。満員の客席の斜め前の男の人の首のあたりが、死んだ父にすごく似ていた。休憩の時、顔を見たら全く違っていた。そのまま外に出て、ガラーンとした浅草の街を歩いていて思った。自分は抜け殻だと。こんな時、向こうから父が来て「おお、おまえか」と言ったら、きっとひざまずいて泣いちゃうんじゃないかと。ここへ父が来るっておもしろいなあ。そう思ったら書けた。死者に救われた。

 【佐藤】 講演で、部分読みという読書法が印象に残りました。考えるテーマを持っていると、部分が光って見える。自分のテーマを持つことが大切ですね。

 【山田】 そうです。やはり自分が基本、中心であると思って本を読まないと、本に引きずられてしまう。書いてあるものを批判しないで信じるのはよくない。

 【佐藤】 学生時代の読書については?

 【山田】 大学の途中から抜き書きをするようになった。気に入ったところをノートに抜き書きする。後年、読んでみると、中年期になって気づいたと思っているようなことがみんな書いてある。中年期、老年期になると抜き書きした部分が生々しく感じるようになる。だから、どうぞ時間のある若いうちに本をいっぱい読んでください。聴衆山田HP.jpg

◇山田太一さん

 1934年東京都生まれ。多くのテレビドラマの脚本を手がける。代表作は『男たちの旅路』『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』など。今年4月、第16回橋田賞特別賞を贈られる。小説家としても活躍し、88年『異人たちとの夏』で山本周五郎賞を受賞。
◇佐藤秀明さん

 1955年神奈川県生まれ。立教大学大学院修了。専門は日本近現代文学。三島由紀夫、川端康成、太宰治、井上ひさし、村上春樹などに関する著書や論文がある。

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