21世紀活字文化プロジェクト

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読書教養講座

2010/12/20

関西大学で万城目 学さん、角田 光代さんが講演

■出演
万城目 学さん
角田 光代さん

 読書の喜びを知ってもらおうと、読売新聞社が進める21世紀活字文化プロジェクトの一環である「読書教養講座」(活字文化推進会議、関西大主催)が、大阪府吹田市の関西大で相次いで開かれた。10月23日には、『鴨川ホルモー』などの作品で知られる万城目学さんが「読書と創作の現場から」をテーマに自らの創作手法について、柏木治・同大文学部教授と学生2人を交えてトーク形式で語った。11月26日には、直木賞作家の角田光代さんが「読書から得るもの、読書からしか得られないもの」と題して講演した。

万城目 学さんトーク 「読書と創作の現場から」

筋書き 先の先まで頭で準備

【柏木】 万城目作品の面白さは、プロット(筋書き)の立て方にあるようですね。

万城目学掲載写真.jpg【万城目】 あらかじめ綿密にプロットを立てて書く方です。来年の3月から新しい小説の連載が始まりますが、その前の4か月で1年分のストーリーを作ります。初期のうちは、アイデアのいくつかが頭に浮かび、それがお互いに菌糸を伸ばすようになる。1か月ぐらい考えているうちに、書く準備ができてきたな、という感じになる。それを全部、頭の中でやります。

【柏木】 頭の中に全部を入れて、一気に書き始める。すごいですね。

【万城目】 原稿用紙で500枚ぐらいなら、頭の中で全部、組み立てられます。先々を読む将棋は、プロになると棋譜がすべて頭の中に入っている。それと似ています。

【柏木】 作品を書く時に取材はされるんでしょうか。『プリンセス・トヨトミ』で国会議事堂を描くために取材したそうですが。

【万城目】 取材と言っても、歩いてデジカメで撮るだけです。大阪府庁を登場させようと思って府庁に行っても、どういう風に使うかまだ定まっていないので、とりあえず何十枚も撮る。その写真を後で見ると、思い出すんです。その時の空気や歩いた時の感じ、見上げた時の威圧感などを。

【学生】 エンターテインメント(娯楽)性の強い作品ばかりです。

【万城目】 20歳代の初めから小説を書いているんですが、そのころはひたすら暗い純文学ばかりを書いていて、どれも新人賞の1次選考にすら残りませんでした。でも、1作書くたびに、自分の青さが取れていき、最後に明るい話を、面白いものを書こうという気持ちになっていた。それが『鴨川ホルモー』でした。20歳代前半の悩みとか青臭い話は、そこを通らないと次に行けない通過点だったのです。30歳になるまで、小説を書く意欲を持続できたから、エンターテインメントが最後に残ったということです。

【柏木】 京都、奈良、大阪と関西を舞台にした作品で注目されました。関西弁と小説について伺いたい。

【万城目】 関西弁は、しゃべっている時は面白いけれど、活字になると読みにくい。面白い話、クスッとさせるのは、標準語じゃないとできない。ですから、面白いことを言う場面では標準語を使い、反対に切なくつらい思いを訴える場面では関西弁を使いました。その方が情緒が引き立つと感じています。

【学生】 作家になって読書は変わりましたか。

【万城目】 10歳代後半から20歳代前半は、本を読むと、自分の頭が何か急に広がったな、という感覚がありました。一気に世界が広がるという経験。それが年を経るにつれてなくなりましたから、そういう広がっていく時期に、古典でも何でも片っ端から読んだ方がいいと思います。

【学生】 読書をしていて、小説の技法が気になったりしますか。

【万城目】 あります。私たちは、読書もテレビも同じように楽しんで育った世代です。今のテレビドラマはスムーズに場面展開を行いますが、その映像の方法を安易に小説に使う人がいる。具体的に言うと、1行あけてその次に、突然違うシーンをポンと出す。そうできたら楽なんですが、美しくない。私なら、1行あけずに、そのシーン全部を1本にできるプロットを考えて書きますね。

【会場】 『プリンセス・トヨトミ』の舞台は大阪の空堀商店街。日常の何気ないところです。

【万城目】 どんな壮大なストーリーでも、小さいところで話を進める方が、拡散しなくて凝縮すると思います。それで、小説を書く時は、大きなバックボーンのストーリーと、主人公の狭い日常を組み合わせるように意識しています。

万城目学対談掲載写真.jpg

 ◇まきめ・まなぶ 1976年大阪府生まれ、京都大卒。2006年、第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した「鴨川ホルモー」でデビュー。続く「鹿男あをによし」「プリンセス・トヨトミ」「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」は直木賞候補となり、話題を集める。「プリンセス・トヨトミ」は映画化され、来年公開予定。 

角田 光代さん講演 
「読書から得るもの、読書からしか得られないもの」

違う世界見せる本の魅力

 最近、大学生の方と接する機会が多く、今の大学生は本当にまじめに本を読んでいるなとびっくりします。私の時代には考えられないような、真摯(しんし)な姿で本に向き合っているようで、うらやましく思います。
 
 同時に、本というものの多様化が、私が学生だった時から、一番進んだ20年じゃないかと思います。作家の年齢層も以前よりずっと幅広くなりました。しかも、純文学もあれば、サスペンス、ミステリー、恋愛物もある。ライトノベルと呼ばれるものが登場してというふうに、いろんなジャンルがあって、若い書き手もどんどん増えている。その結果、文学とか小説というものが一昔前よりも、うんと身近になったんじゃないかなと思うんです。
 
角田光代掲載写真.jpg でもこれは、いい面と、そうでない面もあるのではないかなと思っているんです。いい面は、私たち読者に選択肢が広がったということだと思うんです。選ぶことができるというのは豊かでぜいたくです。一方で、問題にしたいのが、読むという行為が、受け身になってしまったんじゃないかなという印象があるんです。
 
 読者が、書かれているものに対して歩み寄って行かないという印象を私は持っています。1冊の本に書かれているものを読んで、わからない箇所にぶつかった時に、わからないからつまらない、と言う人が非常に増えた気がします。本を読んで得られる感動というものも非常にシンプルになってしまった気がして、今、感動というのは、いい話を読んで、ああ気持ちがよかった、おもしろかったという感想だけが感動になってしまっているんじゃないかという危惧を私は抱いているんです。
 
 本が与えてくれるものは、もっと複雑だと思います。わかるとか泣けるだけじゃなくて、どうしてもわからない、感情移入ができない、全く共感できないというのは、イコールつまらないことではないと思うんです。なぜわからないのか、もしくはなぜ共感できないのか、どこに感情移入ができないのか、なぜ私はこれを読んで不快に思うのかと考えること自体が、既に受け身ではない読書、自分が能動的にかかわっていく読書だと思うんです。読んでいて、嫌な気持ちになったとか、不安になった、ドキドキした、怖くなった、足元がぐらつくような印象を覚えた、憤ったという、気持ちを揺さぶられること全般を私は感動と呼ぶんだと思うんです。
 
 だから、いい場所に連れていってくれるものだけが読書ではなくて、自分が望むと望まざるとにかかわらず、読み手であるあなたを今この場所から連れ出して、夢のような場所、もしくは見たことのない場所、おそろしい場所、とにかく今と違う場所、あなたが見ている世界と違う場所に連れていってくれる、もしくは、そういう世界を一瞬でも見せてくれる、そういうことが読書の一番のおもしろさなんじゃないかなと思うんです。そして、それは小説にしか、もたらすことのできない種類のものなんじゃないかなと思うんです。
 
 小学校1年生のとき『星の王子さま』という本を読んだんですけど、全くつまらないと思って、最後まで読み切れなかったんです。高2になって読み返したら、大変おもしろいというか、非常に話がよくわかる。それを20歳代、30歳代になって読み返すと、どれだけ奥深いことが書かれているのかというのがどんどんわかってくる。つまり、自分の経験によって本というのは大きく変わるんです。
 
 だから、学生の時にこそわからないということを大事にしてほしいと思うんです。わからないものをどんどん読んで、10年後、20年後に読み返してほしい。その時に、あなたが過ごしてきた10年なり20年なりの時間をその本に見ることができる、読むことができます。こういうことも本しか持っていない魅力なんじゃないかなと思うんです。
 
 本の知識というものがないまま大人になってしまうと、30歳になって急に小説を読むなんてできないんです。学生という時間に読んだ本というのが、その後いかに自分の礎になっているかということを、年をとればとるほど実感します。

◇かくた・みつよ 1967年横浜市生まれ。早稲田大卒業後間もない90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞受賞。2003年、現代の家族の孤独を描いた長編「空中庭園」で婦人公論文芸賞。05年「対岸の彼女」で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞など。旅好きでも知られる。 

 

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