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新!読書生活

2011/09/18

第27回「引き算生活を愉しむ」

■出演
やました ひでこさん
釈 徹宗さん

 読書の魅力を伝える対談シリーズ、第27回「新!読書生活」(活字文化推進会議主催、読売新聞社主管、マガジンハウス協賛)が8月31日、東京・中央区の時事通信ホールで開かれ、約300人が参加した。新しい片づけ術として注目されている「断捨離(だんしゃり)」の提唱者、やましたひでこさんが宗教学者の釈徹宗さんと「引き算生活を愉(たの)しむ」をテーマに対談し、断捨離と仏教のかかわりなどについて話し合った。

対談 やました ひでこさん & 釈 徹宗さん

 モノがある悩み

【釈】 昨年の流行語大賞にもノミネートされた断捨離(だんしゃり)。初めは聞き慣れない言葉でしたが、かなり定着してきましたね。

やました先生掲載写真.jpg【やました】 モノをち、ガラクタをてれば、執着もれていく―その漢字3文字を取って断捨離。身の回りにはモノがあふれ、あれも欲しい、これも欲しいという「足し算生活」に、私たちは混乱させられています。そんな中、断捨離に行き当たったのは20年ほど前。高野山の宿坊を訪れた際、掃除が行き届き、必要なモノだけが大切に使われている空間を見て、「引き算生活」へ切り替える重要性に気づいた。

【釈】 仏教でいう「少欲知足(欲を少なくして足ることを知る)」という教えに似ている。断捨離のほうが、語感がいいし、ネーミングも卓抜なので、現代人の心に届いたのでしょう。

【やました】 そういった引き算発想と、私がヨガ道場で学んだ行法哲学と結びついたんです。ただ、行法は高次元で実践しにくい。しかし、日常の片づけ術に落とし込んだら、誰もが取り組めるのではないかと思いついたんです。

【釈】 整理法とか収納術とかはこれまでに何年かおきにブームが到来している。

【やました】 私自身は、片づけは苦手どころか大嫌い(笑)。不器用で、収納ボックスもうまく組み立てられなかった。断捨離は、モノを断ち捨てることから始めます。私が持っているモノは、大事な時間や空間、エネルギーをかけるのに値するのかと点検したら、大半が不要だった。モノが過剰にあるから、片づけの悩みが生じる。モノがなければ、悩みは発生しない。

【釈】 居直られたのですね。

【やました】 効率よく収納しても、いつかはまたモノは増えて、収納や片づけに悩む自分に逆もどり。これでは、片づけられないダメな私という自己否定感からもいつまでも解放されない。

「自分軸」が大切

釈徹宗掲載写真.jpg【釈】 従来の整理法や収納術と異なるのは、片づけから始まって、その先に、自分を点検し直し、モノに執着しない心を育てるという奥行きがある点。しかし、モノを捨てる行為にはある種の痛みが伴う。思い出の品とか、まだ使えるので捨てられないことも多いのでは。

【やました】 家の中には使用可能というだけで置いてあるモノであふれている。これはモノが主役になっている状態。主役を自分に転換することが断捨離を実践する上でのポイントです。

【釈】 モノとの関係性を問い直すのですね。

【やました】 私が使うから必要、私が使わないから不要という「自分軸」が大切なのです。ところで、いま財布に何が入っていますか?

【釈】 現金のほか、カード、領収書、診察券とか。

【やました】 モノを軸に、カードや領収書などを種別ごとに分けていくのが収納術。一方、断捨離は、どんなモノであれ、そのモノとの関係に意図意思があるのか、それとも無自覚無意識なのかを見極めていく。例えば、ポイントカードも何種類も入っていませんか。

【釈】 あれ、なかなか捨てられない。いつかまた使うんじゃないかと思って……。

【やました】 マイレージをためて行きたい国の航空券をゲットしようなど明確な意思があるカードの場合と、ただ店員さんに勧められるままに作って、何がもらえるか意識もないカードとは、明らかに、性質が異なりますよね?

【釈】 確かに、ポイントをためて何かもらうことはめったにない。そんなカードならば、とっておく意味は見いだせませんね。

自己肯定感 育む

対談掲載写真.jpg

【やました】 それでは、お薦めの本を紹介しましょう。年代順に挙げますと、小学校高学年に繰り返し読んだ『赤毛のアン』。孤児のアンが自己肯定感を育むプロセスが描かれている。片づけられなく自己嫌悪に陥っていた人が、それを克服していく姿と重なります。

【釈】 私は同じ赤毛でも、『赤毛連盟』。殺人事件は出てこないんですが、依頼者と犯罪者とホームズとの知的な応酬がコミカルでおもしろかった。

【やました】 高校時代に読んでいたのがフロムの『自由からの逃走』。人間は自由を求めているにもかかわらず、自由を恐れるという内容が印象的でした。

【釈】 自由には苦しみやしんどさが伴います。

【やました】 当時はそう思いましたが、いまは自分の人生は自分で決めたいなと。断捨離というのは選択、決断ですから。20代にヨガと出合ってからは、ヘッセの『シッダールタ』を愛読しました。釈迦と同名の主人公、シッダールタが大きく呼吸をしたという一節がある。息をして生まれて、息を引き取って死んでいく――呼吸ひとつにも人間の一生があると改めて気づかされた。

【釈】 私が影響を受けた大村英昭先生の『死ねない時代』は何度も読み返しました。延命操作が飛躍的に発達した、1990年の著作で、いかに死ぬかということを考えさせられた。大村先生は昨年、がんであることをカミングアウト。著名な社会科学者なのですが、社会学の本を捨ててしまい、在宅で死ぬことに残りの人生を懸けていらっしゃる。

【やました】 断捨離してしまったんですね。

【釈】 逆に、捨てられない大切な本は、内田樹先生の『死と身体』。これは講演録を本にしたもの。実はその講演をずっと聴いていました。語りには語りの魅力があったのですが、活字にするとまた別の魅力もある。私たちは死者の声を聞こうとするんだけれども、死者の真意は絶対にわからない。わからないからこそ、私たちは儀礼を営むんだという、内田先生のダイナミックな思想が展開している。

【やました】 私の大切な本は、森信三さんの『一日一語』。366日分の金言が並べられているんですが、中でも「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。しかも一瞬早過ぎず、一瞬遅すぎない時に」という言葉に感動しました。3、4年前から毎日読んでいます。

【釈】 いろいろな本が断捨離の考えのもとになっているのですね。だから美学とか文化とかを内包している。

【やました】 絞り込んで、絞り込んで、さらに研ぎ澄ましていった日本人の鋭い感性と通じるような。

【釈】 16世紀に来日したヨーロッパ人は、日本の家には家具が少なく簡素なことに驚いたそうです。ヨーロッパでは、ベッドやテーブル、いすは不可欠なのに、日本は、布団を敷いたら寝室になり、食台を出したらリビングになる。そぎ落とすのが上手な日本人は独特の文化を生んでいった。俳句もその典型です。

【やました】 断捨離は片づけを通して自分を知り、心の混沌(こんとん)を整理して人生を快適にしていく技法なんです。

【釈】 執着心を調(ととの)えると幸せにつながるという方向性は仏教にも通じますね。
 

お薦め本リスト.jpg

◇クラター・コンサルタント やましたひでこ 東京都出身、石川県在住。学生時代にヨガ道場で、行法哲学「断行・捨行・離行」と出合い、それをもとに断捨離を提唱。2001年から「断捨離セミナー」を全国で展開している。著作は『新・片づけ術 断捨離』『新・生き方術 俯瞰力』(マガジンハウス)など。
◇宗教学者・僧侶 釈徹宗(しゃく・てっしゅう) 1961年、大阪府生まれ。浄土真宗本願寺派如来寺住職、相愛大学教授、日本仏教学会理事。NPO法人リライフ代表として、高齢者向けグループホーム「むつみ庵」も運営。著作は『自然(じねん)を生きる』(東京書籍)『キッパリ生きる!仏教生活』(技術評論社)など。
◆断捨離とは
「不要・不適・不快」を排除 
 
 断捨離は、クラター・コンサルタントの肩書を持つ、やましたひでこさんが提唱した。クラターとは英語でガラクタのこと。やましたさんは「私の仕事は、住まいにあふれるモノを見つめ直し、『不要・不適・不快』なモノを取り除く助言と手伝いをすること」と話す。モノを断ち、ガラクタを捨てれば、執着も離れていき、住まいのみならず心までもが快適になっていくというのが、やましたさんの主張である。心の執着を手放すためのヨガの行法哲学「断行(だんぎょう)・捨行(しゃぎょう)・離行(りぎょう)」がその理念になっている。講演や著作などで一般に浸透し、「ダンシャリアン(断捨離に目覚めた人)」という新しい言葉も生まれた。 

 

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